スーパー歌舞伎II『ワンピース』を見逃すところだった!


尾田栄一郎の『ONE PIECE』は累計3億部を超え、今年6月には、「最も多く発行された単一作家によるコミックシリーズ」としてギネス世界記録に認定されました。若者に絶大な人気を誇るこの漫画、「こち亀」と並んで我が家の倅どもの愛読漫画だったわけですが、自分はまったく読んだことがありませんでした。従って、スーパー歌舞伎IIもあっさりスルー。

そんなこんなで先月チケットの手配を見送ったものの、俄かに舞台の評判が気になり始め、慌ててチケットを入手した次第です。集英社新書の『ONE PIECE STRONG WORDS』(内田樹推奨だしね)を買い込み、倅からレクチャーを受け、主人公ルフィーがゴムゴムの実を食べて永遠に泳げなくなる代わりに身体全体が伸び縮みできるようになったことを知りました、「海賊のくせに泳げなくてどうする」と突っ込みを入れてみましたが・・・家族の冷たい視線を浴びる始末。

漫画喫茶でコミック全巻を読破してから観劇に出掛けようかとも思いましたが、結論を急ぐと、その必要はまったくありません。「ラグビーのボールは前に抛ってはいけない」ということさえ知っていれば、ラグビーは楽しめます。同様に、海賊ルフィーの手足が自由自在に伸びることさえ知っていれば十分なのであります。ルフィーの鉄拳は、スクリーンを巧みに使った演出だけではなく、黒衣(くろご)を何人も登場させてアナログ表現する場面がありますので注目です。

2回の幕間を含め4時間30分の長丁場でしたが、振り返ればあっという間の終幕でした。本作は、猿翁仕込みの宙乗りに加え、伝統歌舞伎の演出法である早替り・早拵えや本水(ほんみず)ありの大スペクタルに仕上がっています。主演の市川猿之助が三役を演じるところが最大の見どころです。歌舞伎本来の技法とミュージカル仕立ての演出が見事に融合しているので、歌舞伎を観たことのない人も原作を知らない人も、十分に楽しめる内容だと断言します。大向こうから「澤瀉屋」と掛け声が掛かることもありませんでした。きっと歌舞伎の贔屓筋とは異なる観客が大勢を占めたからでしょうか。演出も手掛けた猿之助の思惑どおり、『ONE PIECE』X『スーパー歌舞伎II』の異色コラボは、歌舞伎を知らない世代のハートを鷲掴みしてしまったようです。

来年、大阪公演が予定されているようですが、当分、東京では観られそうにありません。まだご覧になっていない方、お見逃しなく!