もうしばらく海老蔵のままでいい!

三連休の最終日、日テレが毎年1月に放映する『市川海老蔵に、ござりまする2021』をタイムシフト視聴。長引くコロナ禍で「歌舞伎役者を辞めよう」と思うことさえあったと海老蔵さんは呟きます。そして、自らの十三代目市川團十郎白猿襲名の延期よりも、「勸玄君の襲名延期、本人はしたかっただろうな。そっちの方が悲しい」と長男勸玄君への気配りを忘れません。

舞台の仕事がなくなり塗炭の苦しみを味わったのは、役者さんだけではありません。Uber Eatsやコンビニでアルバイトを余儀なくされたスタッフが番組で苦しい胸の内を吐露、そんな窮状を打開しようと70人もの大所帯を預かる海老蔵さんは、2020年9月に熊本・八千代座で公演開催に漕ぎつけます。こうして地方公演を引っ張る一方で、新年の親子共演の舞台に向け、鬼の形相で娘や息子にお稽古をつける海老蔵さんは、さすが市川宗家を背負って立つ座頭です。

今できることをやるんだ、そんな覚悟がひしひしと伝わってきました。

「こういう時こそ、焦らず、騒がずと。何事が起こっても動じない心を鍛錬しよう」
海老蔵のままでいられるから、海老蔵のうちにできることをとことんやってしまおう月間」

<初春海老蔵歌舞伎>は海老蔵さんの有言実行企画だったというわけです。東洲斎写楽の役者絵といえば、五代目市川團十郎演じる竹村定之進。この五代目は息子の海老蔵に六代目を襲名させ、こんな口上を残して(しかも4日で取りやめ)、自らを蝦蔵(えびぞう)と改名してしまいます。

「祖父、親は海老蔵の文字を付けましたが、私がゑびは天蝦(ざこえび)の文字を用ゐまする。又祖父は栢莚、親は五粒、倅は海老蔵の節柏莚、私は白い猿と書いて白猿と申します。此心は名人上手には気が三筋足らぬと申す義でござりまする」(服部幸雄市川團十郎代々』より)

海老蔵さんが近い将来襲名することになる(十三代目市川團十郎)白猿には、五代目の謙虚な姿勢に自らを重ね精進に励みますという覚悟が込められているのです。海老蔵のうちにできることはまだまだあるに違いありません。もうしばらく海老蔵のままでいい、そうエールを贈りたいと思います。

市川團十郎代々 (講談社学術文庫)

市川團十郎代々 (講談社学術文庫)