「日本のいちばん長い日」は短かすぎる!

封切直後に「日本のいちばん長い日」を観ました。高齢者しかいないかと思いきや、劇場は終日満席で吃驚、自分の両隣は若いカップルでした。並行して、ミッション・インポッシブルやジュラシック・ワールドという豪華大作が掛かっていながら、終戦を扱った邦画を選んだ若者に座布団3枚くらいあげたい気分になりました。戦後70年の節目、戦争を知らない親子で観て欲しい映画です。

原作は、昭和史研究の泰斗半藤一利による同名作品。1965年に大宅壮一編で文藝春秋社から出版されていますが、序文以外は当時同社の社員だった半藤氏が執筆したのだそうです。店頭に並んでいる文春文庫の奥付を確認してみると第25刷とありました。これからも長く読み継がれて欲しいノンフィクションの傑作です。

映画に話を戻しましょう。何といっても役者が豪華な上、キャスティングが見事に嵌っていたと思います。なかでも、鈴木貫太郎総理役山崎努の演技は、さしずめいぶし銀の如し。大事な場面で信念を貫く老閣下の姿は実に感動的でした。ご聖断を戴いて席に戻る鈴木首相の足の運びは、狂言由来で「鞠躬如(きっきゅうじょ)」といいます。終戦当時、昭和天皇は44歳。戦争映画では、しばしば天皇陛下のお姿を御簾に隠したり、シルエットだけにしたりします。ところが、この映画では等身大の昭和天皇にスポットを当てています。今年49歳を迎える本木雅弘の瑞々しい演技にも感服しました。天皇にして大元帥という難しい役どころを、抑制を効かせて見事に演じています。

過去に侍従長も務めた鈴木貫太郎が穏やかで優しい父親役、長男が侍従武官を経験した阿南陸相、そして昭和天皇が次男というような疑似家族をイメージして制作したと原田監督は述べています。昭和天皇に対する鈴木総理と阿南陸相の眼差しは、確かに家族のものでした。そして、本土決戦か降伏かで大揺れに揺れる陸軍を最後まで統率牽引した阿南陸相が、映画の主役でした。この人なかりせば、陛下のご聖断なかりせば、日本は本当に焦土と化していたかも知れません。

戦争を始めるのは容易い、しかし、終結させることは至難。この映画で再認識させられます。136分はあっという間でした。敢えて粗探しをすれば、題名に倣って、もう少し上映時間を長くとって欲しかった。「シンドラーのリスト」は確か195分、あと1時間長くして、最高戦争指導会議や閣議の紛糾ぶりを丁寧に描けば、もっと臨場感が伝わったはずです。セットが全体的に小奇麗だったのも気になりました。長引く会議で精根尽き果て汗まみれになった閣僚の表情をクローズアップしてこそ、いちばん長い日といえるのではないでしょか。1967年に公開された岡本喜八監督作品も近々観ようと思っています。