1967年版「日本のいちばん長い日」に軍配

終戦記念日の昨日、NHK BSプレミアムで放映された岡本喜八監督の映画「日本のいちばん長い日」を観ました。先週、原田眞人監督による2015年版を観たばかりなので、細部を比較鑑賞できました。総じて、1967年版の出来栄えの方が優れていると感じました。旧作を観てしまうと、新作を観たときには気付かなかったアラにさえ気付かされます。

旧作は白黒映像、それが却って刻々と迫る終戦の日へのドキュメンタリータッチを増幅してくれます。多量の出血シーンや原爆投下直後の凄惨な被害状況も、見る側に想像力を喚起させる効果があるように思います。

何より、上映時間(157分)が新作より21分長い分、新作は叛乱軍による玉音盤奪取という最も緊迫した場面を丁寧に描写することに成功しています。特に、叛乱軍の中心的人物畑中少佐が自転車で陸軍省や宮城を駆け回る様子を汗でぐっしょり濡れた軍服の後ろ姿で捉えたシーンは、それだけで、無情な時の推移を表現し尽します。

閣議で円卓を囲む重臣らが噴き出さんばかりの汗を額に浮かべている様子や、侍従たちが叛乱軍から上着を脱ぐことを禁じられる場面なども、一連の出来事が真夏に起こり進行していることを絶えず観客に意識させます。涼しげというのは言い過ぎかも知れませんが、新作は季節感や空気感を的確に表現し切れていません。

閣僚、軍人、陛下の側近、法曹関係者と登場人物が多い作品にもかかわらず、新作は重要な登場人物の肩書に字幕を入れていません。史実によほど詳しい人でないかぎり、降伏派VS本土決戦派という対立構造が読み取れないでしょう。旧作は仲代達也によるナレーションも交えて、しっかりと登場人物の役割を紹介しています。

新作は、鈴木総理や阿南陸相の家族愛にフォーカスしたために、史実の重要な場面を割愛する結果になってしまいました。新作はタイトルから少し逸脱してしまったということです。新旧両作品を鑑賞することをお勧めします。

(旧作で気になったこと)陸軍省の玄関脇に据えられた北村西望の「将軍の孫」像や倉田百三の『出家とその弟子』の文庫本が、小道具として、映画に幾度か登場します。いかなる寓意を込めてのことか気になりますね。