池井戸潤最新作『銀翼のイカロス』の辛口書評

相次いで原作がTVドラマ化されて池井戸潤さんの小説は昨年大ブレイク。オレバブシリーズと呼ばれていた時期にブログで取り上げたりしてブレイク前から注目していた作家でしたが、これほど売れるとは想像だにしませんでした。今や、半沢直樹シリーズと云い換えないと通じないのかも知れませんね。

待望の半沢直樹シリーズ最新作を買って早速読んでみました。作者の持ち味であるテンポの早いストーリー展開は健在で、大方の読者の期待は裏切らない内容になっています。前作ではM&Aを取り上げ、今回は民主党政権下における日本航空の会社更生や政投銀行民営化をテーマにするあたり、見事な着眼だと思います。

ただ、<巻を措く能わず>と最大級の賛辞を贈るのは少々躊躇われました。粗探しのキライは否めませんが、前3作を凌ぐ内容を期待していたファンのひとりして、今回は少し辛口でコメントしてみることにします。

★冒頭に遺書が登場しますが実に凡庸な内容で、中盤(第5章)で故人の正体が明らかになると一層陳腐に思えてきます。もうひと工夫欲しかった、残念。
★一見無関係に見える登場人物ふたりが実は小学校の同級生だったという種明かしは、シリーズ初回作の使い回しだけに頂けません。
★シリーズでは度々バンカーという表現が登場しますが、バンカーとは一般に銀行家(銀行経営者)を指す言葉です。日本の銀行員が海外でI am a bankerなどと自己紹介したら失笑を買うのが落ちでしょう。一歩譲って専務や常務ならまだしも、メガバンクの部長や次長はバンカーではあり得ません。(超)一流のバンカーという形容に拭い難い違和感が残ります。
★メーンバンクという表記も気になりました。正しい発音はメインバンク。主力・準主力銀行の方がしっくりきます。
★「天を仰ぐ」という表現は作者のお気に入りなのでしょう。最新作序章にも「半沢は、思わず天井を仰いだ」とあります。シリーズ以外の作品でも度々登場するこの表現、少し鼻につき始めました。

シリーズ次回作に期待することにします。

銀翼のイカロス

銀翼のイカロス