2020年医師・歯科医師・薬剤師統計(厚労省)を読み解く~大学淘汰の時代へ~

7月23日付け朝日新聞(朝刊)の見出し「薬学部の定員を抑制へ」が目に留まりました。今年1月、週刊ダイヤモンドが「薬剤師・薬局淘汰」と題して特集を組んでいたのを思い出しました。医療系資格のなかで、かなり以前からコンビニ店舗数の2倍以上ある歯科医院(歯科医師)の供給過剰が指摘されていましたが、同様に薬剤師の供給過剰が問題視されています。そこで、医師・歯科医師・薬剤師の実数を確認すべく公表されている厚労省の最新統計(2020年)をあたってみました。窓口は「政策統括官付参事官付保健統計室」、官僚だけに通じる役職を連ねた名称からして行政の非効率性を象徴しています。

それはさておき、驚いたのは薬剤師の数。32万人以上いるのですね。以下、資格別従事者数です。近年、多くの私立医大で発覚した男女差別入試に鑑み、男女比も先の統計から引用しておきます。

医師数:339,623人(男77.2%・女22.8%)(平均年齢:50.1歳)
歯科医師数:107,443人(男75%・女25%)(平均年齢:52.4歳)
薬剤師数:321,982人(男38.6%・女61.4%)(平均年齢:46.6歳)

現在、薬学部を設置している大学は77大学で2021年の入学定員は11,797人です。薬剤師の数は今後も増え続け2045年には43万~45万人になるそうです。人口減少と学部定員増加がもたらす供給過剰は医師にとっても深刻な問題です。2033年には医師も需給バランスが均衡し、その後は供給過剰に転じる見方が有力です。

抜本的な対策は大学の淘汰だと思っています。朝日新聞記事が指摘しているように、薬学部を設置している私大58大学のうち22大学は入学者が定員の8割に届いていません。学費の安い国公立大学には優秀な学生が集まり、薬剤師国家試験の合格率は90%以上をキープ。一方、一部有名私大を除けば私大の薬剤師国家試験合格率は総じて低迷しています。医学部にも言えることですが、私大は表面上の国家試験の合格率を上げるために国家試験の合格水準に達しない成績の学生を容赦なく留年させます。従って、学部定員と国家試験合格者数に大きな開きがある大学の国家試験合格率は明らかに水増しされているのです。

真に憂慮すべきは医療全体のクオリティの低下です。薬剤師にも米国のように卒後研修を課すべきだという意見もあります。高度な専門性を求められる医師や薬剤師には、資格取得後も、定期的なqualification checkを行い、有能な医療従事者の待遇を改善していくべきだと思います。医療資格の一角が食えない資格になって本当に困るのは私たちなのです。

こうした大学乱立に伴う教育水準の劣化は医療系学部を擁する大学だけの問題ではありません。そもそも大学の名に値しない学校が多すぎるのです。旺文社の調べによれば、2021年の日本の大学数は788、その4分の3は私立大学です。諸悪の根源は文系。人文系を全否定するつもりはありませんが、日本の劣悪な大学教育では社会人が世界と伍して戦うだけの専門知識は絶対に身につきません。作家の橘玲さんは賞味期限の切れた知識を「学問」と強弁して高い学費をとる大学など不要だと唱えています。教養が目的ならカルチャーセンターで足りるとも。まったく同感です。

私立中高一貫校経由で受験偏差値の高い医学部や薬学部に入学できたとしても未来は決して明るくありません。両親が一生懸命働いて私立学校に支払う法外な学費を捻出したとしても、大学教育がこの惨状ではコスト回収には相当な時間がかかります。場合によってはコスト倒れしかねません。その上、日本の賃金は20年以上横ばいを続けています。イノベーションから取り残された日本経済の低迷の一因は明らかに劣化し続ける大学教育にあるのです。