「写真家ドアノー/音楽/パリ」展@Bunkamuraザ・ミュージアム

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中(~2021/3/31)の「写真家ドアノー/音楽/パリ」展を訪れました。会場入口で愛機ローライフレックス(末尾注)を構えたロベール・ドアノーと対面です。パネルの右側にこう書かれています。

<パリは、時間の浪費がチケット代わりになる劇場だ>ロベール・ドアノー

言い得て妙な形容です。本当にパリはそぞろ歩きするだけで劇場空間にいるような興奮や感動が味わえる街だと思います。展覧会のテーマはズバリ音楽。シャンソンからフレンチポップス、戦後占領から解放されるとパリの街にはアメリカからジャズがもたらされ、様々な音楽が横溢します。パリほど音楽が似合う街はありません。会場入口辺りに佇んで耳を澄ますと、イヴ・モンタンの「枯葉」や昨年9月に93歳の生涯を閉じたジュリエット・グレコの「パリの空の下」が聞こえてきます。

パリの街角の息遣いを感じるには、ステージのミュージシャンを撮った写真よりも、断然、市井の人々が集うスポットを捉えたワンショットです。とびきりの一枚は、肉屋の店内で流しのアコーディオン弾きの演奏を聴く店員を捉えた「音楽好きの肉屋」。さりげない瞬間を切り取った写真が印象に残るのは、<その後の物語を紡ぐような写真を撮りたい>というドアノーの狙いが見事に奏功してるからです。やがて、<記録は熟成>していくのでしょう。

一番印象に残った写真は<サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ>。デビュー前のグレコが伏し目がちに犬の「ビデ」を見つめる姿を捉えたこの写真からは、すでに歌姫のオーラが漂っています。<ポン・ド・クリメのジャック・プレヴェール>は、映画「天井桟敷」の脚本家にしてシャンソンの名曲「枯葉」の作詞者でもあるプレヴェールが煙草を咥えて階段を上る普段着の姿を捉えたもの。ロベール・ジロー同様、プレヴェールは、ドアノーの親友だけに、そのひととなりが手に取るように伝わってくるポートレートに仕上がっています。

少し残念だったのは、先に紹介したドアノーの珠玉のメッセージがパネル上部に配置されてしまったため、視認性に乏しかったこと。そして、購入するはずの図録がB6判で折角の写真が小さすぎて見にくかったこと。手元にある何必館京都現代美術館のドアノー展図録(2001年)を見習って欲しいものです。

図録は結局見送り、先のグレコとプレヴェールを撮った2枚と共に、アルタイユにある<エリック・サティの家>という写真のポストカードを購入しました。展覧会に先立って、ドゥ マゴ パリでランチを頂きました。会期中、個室が「ドアノールーム」に模様替えされ、ランチ、アフタヌーンティー、ディナーが1日各1組にかぎり、利用可能だそうです。

ローライフレックス:1928年にドイツのフランヶ&ハイデッケが製造した二眼レフカメラROLLEIFLEXをドアノーは1932年にローライフレックススタンダードを購入しています。