偽版画が流通する百貨店催事場展覧会~その実態に迫る~

今週、平山郁夫東山魁夷の偽版画が流通していると報じられました。ときどき、都内の百貨店催事場で開催される展覧会に足を運ぶので、ピンときました。こうした巨匠の一点物日本画はとても高価で手が届きませんが、リトグラフなら庶民でも買えなくはありません。数十万円~200万円前後と市場価格がそこそこお手頃だからです。報道によれば、東美鑑定評価機構に偽物と判断された作品は次のとおりです。

片岡球子~「うららかな富士」「河口湖の赤富士」「桜咲く富士」「富士」「冬版画集<富士四題>より」

東山魁夷~「秋映」「風吹く浜」「草青む」

平山郁夫~「月光ブルーモスク イスタンブール」「プール」「流沙朝陽」

計10作品、販売総額は5500万だそうです。催事場の展覧会を訪れたことがある美術品愛好家ならそのいずれかを必ず目にしているはずです。百貨店の催事場では、定期的にこうした作家の売れ筋版画が展示販売されています。何度も通えば分かることですが、毎回、判で押したように似たような作品が並んでいることに、以前からなんとなく違和感を覚えていました。さらに、早逝の画家有元利夫リトグラフ6作品(「MAGIC 占いの部屋」「遊戯」「赤い部屋」など)の偽物が流通していると知り、大変ショックを受けています。初期銅版画集(ED77)のうち1枚だけではありますが、所蔵もしています。過去には、コンディションの良さそうな「MAGIC 占いの部屋」<写真下>を買いそうになったことさえありました。コンディションが良かったのは贋作だったからかも知れません。

立派な額装に収まった巨匠の版画が有名百貨店で販売されているとなれば、誰も真贋を疑うことはないのでしょう。ところが、大きな盲点があって、実際の販売者は当の百貨店ではなくて、催事場の一角を借りて営業している画商さんなのです。ブース毎に画商さんが異なるので要注意です。具体的に商談が進めば、15~20%の値引きが当たり前に行われます。露天商と比べるのは乱暴かも知れませんが、値引きを前提に販売価格が決められているので、価格交渉はマストです。

贋作と判定された片岡球子リトグラフ「うららかな富士」の場合、制作1986年、限定100部(本人サイン入り)と謳って、複数の画商が販売しています。通常、エディション(版)はリトグラフの左下余白に分数で表記されます。版画なら何枚でも刷れそうなものですが、沢山刷ればそれだけ版が痛みますので、最大でも200部がいいところでしょう。

同じく贋作と判定された平山郁夫リトグラフ「月光ブルーモスク イスタンブール」の場合、制作2007年、エディションは130部とされています。平山郁夫は2009年に亡くなっているので、制作は生前だと分かります。

そもそも素人に真贋判定は無理なので、安易に巨匠の作品だからというだけで購入するのは危険です。特に、画商の口車に乗るのだけはやめておきましょう。購入した作品の経済的価値はないと思っておくべきです。有名作家の作品を買うくらいなら、藝術大学卒業生のグループ展などで気に入った若手の作品を購入する方がずっと安心だと思います。

2月10日、天声人語子は、今回の贋作騒ぎに寄せて、フランスの画家テオドール・ルソーの言葉を引用しています。フェルメールの贋作画家として知られるメーヘレンをはじめ、稀代の贋作者は名乗り出たい欲望に苛まれているに違いありません。

<我々が語ることができるのは、見抜かれてしまうような出来の悪い贋作についてだけだ。出来の良い贋作は今なお壁にかかってる>