ドイツ映画「ミケランジュロの暗号」

http://sorette.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2011/09/11/01_2.jpg今風に云うとドイツ映画は微妙ということになるのではないでしょうか。映画ファンを任じている人でもドイツ映画の代表作となるとすらすらとは答えられないはずです。自分の頭に浮かんだのは「ブリキの太鼓」(Die Brechtrommel)と「U・ボート」(Das Boot)くらいです。前者は「地獄の黙示録」と評価を二分したほどの名作ですがポーランドノーベル文学賞受賞作家ギュンター・グラスの大河小説をドイツ人監督フォルカー・シュレンドルフが映画化したものです。混じりけなしのドイツ映画とは言い難いですね。
前二作同様、「ミケランジュロの暗号」もナチス政権下のヨーロッパが舞台です。上映館が少ないのでTOHOシネマズシャンテまで出掛けたのですが予想に反して満員でした(ネット予約しておいて正解でした)。主人公はウィーンで画商を営むカウフマン家の後継ぎヴィクトル(モーリッツ・ブウライプトロイ)、オーストリアナチスドイツが侵攻してくると一家は窮地に立たされます。ヴィクトルは所蔵するミケランジュロの素描の在り処を無二の親友ルディに打ち明けたことをきっかけに両親と共にナチスに捕えられ収容所に送り込まれます。カウフマン家の使用人の息子ルディ(アーリア系)がナチス兵士となって出世することを目論みヴィクトルを密告したからです。時恰もムッソリーニ率いるイタリアとの同盟関係に罅が入り始め、ナチスはミケランジュロの素描を手土産にイタリアとの関係修復に動きます。ナチスがヴィクトルから略奪した素描は贋作だったことが判明しナチス幹部の面目は丸潰れ、本物の在り処をめぐって幼馴染のふたりは対立を深めていきます。原題は"Mein Bester Feind"、最良の友にして敵といったところでしょうか。翻案された邦題はプロットにふさわしくいいネーミングです。収容所で命を落すことになる父親が遺した<視界から私を離すな>という言葉の意味が最後に分かります。
ユダヤ人の苦難を描いた映画は数知れないものの、本作ではユダヤ人がナチスに追い詰められながら次第に翻弄する側に立場を変えていく点が見所です。作品に通底する控えめなユーモアにドイツらしさを感じます。もっと快哉を叫んでも良さそうなラストシーンにも抑制が効いています。質実剛健を旨とするそんなドイツ映画もたまにはいいものです。