メルケル政権のアーティスト支援策に見る懐の深さ

安倍首相が家で寛ぐ動画を配信して顰蹙を買う一方、初動対策に遅れをとったトランプ大統領は批判の矛先をWHOに向けたりと、先進国リーダーの危機管理(Crisis Management)に綻びが生じています。緊急事態宣言発出後も、首都圏自治体トップの言動は右往左往、メディアに頻繁に登場するのは結構ですが、小池都知事や黒岩神奈川県知事の足並みが揃わない言動は却って混乱を招いただけ。政治的パフォーマンスと受け取られるのも宜なるかなです。

先月末、ニューズウィーク紙が次のようなヘッドラインで伝えたドイツ政府のフリーランサーや芸術家、個人業者への巨額の支援策は眼から鱗でした。すでに発表された財政パッケージのなかの個人・自営業者向けの支援は、最大で500億ユーロ。邦貨換算で5.9兆円という巨額支援に相当します。

<ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援>

緊急事態宣言発出後、法人格のある企業への救済策は多少見えてはきましたが、最も窮地に追い込まれているはずのフリーランスやアーティストへの支援は完全に置き去りにされた格好です。

4/14付朝日新聞の<多和田葉子のベルリン通信>によれば、フリーの俳優、演奏家、朗読会の謝礼を主な収入源としている作家などは、蓄えがなく生活が苦しくなった場合、申請すればすぐに9千ユーロの補助金が給付されるのだそうです。ベルリン在住の作家であり詩人の多和田葉子さんは、文化が大切にされていることを実感するだけで気持ちが明るくなったと言います。

モニカ・グリュッタース文化相はこのように語っています。

「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ。特に今は」、「文化機関や文化施設を維持し、芸術や文化から生計を立てる人々の存在を確保することは、現在ドイツ政府の文化的政治的最優先事項である」

日本では宮田文化庁長官が「文化芸術の灯を消してはなりません」「日本が活力を取り戻すために文化芸術が必要だと信じています」と声明を出したところ、具体的支援策がなくネット上では「ポエム」だと揶揄されています。文化認識の彼我の差に愕然とさせられます。あくまで正論を貫き、ユーモアを忘れないメルケル政権の評価が高まっているのも頷けます。