映画「ダンケルク」に見る撤退戦の意義


お昼過ぎまでボランティア、その足でTOHOシネマズ日本橋へ。TCXと呼ばれるエクストララージスクリーンを擁した都内でも屈指の設備を誇る映画館だけに、「ダンケルク」のような史実に基づいた戦争映画を見るにはうってつけのスポットなのです。一度、IMAXやTCXを体験してしまうと普通のスクリーンが物足らなくなってしまいます。それでも、今回の映画ではデジタル処理された映像の一部が殆どの映画館でカットされてしまうのだそうです・・・^^;


欧州で第二次世界大戦が始まったその翌年1940年5月に、フランス防衛線を次々と破って電撃侵攻を果たしたドイツ軍は英仏軍をフランス北部ダンケルク港へと追い詰めます。

映画は、退路を断たれた英仏軍が故国英国へ撤退する負け戦を、陸海空の3つの視座から描写していきます。英国本土防衛のため主兵力の温存を図りたいチャーチル首相は、40万人に及ぶ兵士救出の任に戦時徴用した民間船を充てるという奇策(「ダイナモ作戦」)に出ます。せいぜい4万人の兵士が救出できればという絶望的な状況の下、9日間で860隻もの船舶が動員され、結果、33万人もの兵士の命が救われます。「ダンケルクの奇跡」とか「ダンケルク大撤退(Dunkirk Evacuation)」と呼ばれる所以です。

人間ドラマを全面に押し出さないで、緊迫した戦場での出来事を淡々と描いている点を評価したいと思います。英仏兵の乗船争いの場面などついつい感情移入させたくなるような場面を深堀りせず、観客の想像の翼に委ねるような作り方に却って好感を持ちました。救出劇の最中、中心的な役割を果たす英国空軍の名機スピットファイアは、実物をレストアして撮影したのだそうです。史実に鑑みれば、孤軍奮闘したパイロットにもっとスポットライトを当てて欲しかった。

実はこの救出劇、徹頭徹尾、英国軍の視点から描かれていて、海岸での銃声や空中戦闘シーンを除いて、肝心の敵ナチスドイツの動静がまったく登場しません。クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」に続く「硫黄島からの手紙」のように、英独双方の視点で描いた続編に期待したいところです。冒頭、海岸線でなす術なく隊列を組んで救出船を待つ英仏兵を容易に殲滅できたはずなのに、何故ドイツ軍は総攻撃を躊躇ったのでしょうか。そこに「ダンケルクの奇跡」をもたらした勝者の綻びが潜んでいます。敵失と民間人の命懸けの協力でかろうじて繋ぎとめた大勢の兵士の命が、やがて英国の反撃を後押しすることになります。負け戦を潔く認めた勇気ある撤退戦にこそ、兵士の士気を回復し自国民を再び奮い立たせる力があるというわけです。華々しい戦闘シーンを真正面から描いた映画よりも、その蔭で危険な救出作戦や撤退戦に従事する将兵にスポットを当てた本作や「プライベートライアン」のような戦争映画にこそ、見るべき真実があると感じます。