渡辺一枝さんの聖山カイラスの講演会を聴いて

先月23日、市谷にあるJICA地球広場で開かれた渡辺一枝(いちえ)さんの講演会を聴いてきました。ご存じない方には、作家の椎名誠さんの妻女と紹介しておきましょう。二十代の時分、椎名誠さんの代表作『岳物語』を読んで、渡辺一枝さんの初期のエッセイにも触れたことがあった上、演題がチベット関連だったので勇んで会場に足を運びました。秘境に近いチベット、しかもカイラス・・・にもかかわらず会場は満席で些か驚かされました。

講演会冒頭の自己紹介を聞いて、保育園を退職した翌日、一枝さんが一念発起の初チベット旅行に旅立たれたことを知りました。初旅行の1987年以来、これまでに7回チベットを訪れ、11回聖山カイラスを訪れたのだそうです。

一枝さんの子供の頃のあだなはチベット(何故だろう?)。中学生になって川喜田二郎氏の『鳥葬の国』を読んだりダライ・ラマ14世の亡命を知って、次第にチベットに惹かれていったそうです。なにより、チベットという音に特別の憧れを抱いていたとおっしゃっていました。

自分も中学生の頃、『鳥葬の国 秘境ヒマラヤ探検記』(現在、講談社学術文庫所収)を読んで衝撃を受けた覚えがあります。チベットに惹かれるようになったは、恐らく川喜田氏の著作がきっかけだったように思います。2007年9月、青蔵鉄道経由初めてラサを訪れたとき、岩壁の遥か頂きにある鳥葬台を仰ぎ見て、畏敬の念を抱いたことを思い出します。帰国後、映画『おくりびと』誕生のきっかけを作った納棺夫青木新門さんの『転生回廊-聖地カイラス巡礼』(文春文庫)を読んでから、未だ訪れたことのないカイラスにも興味を持つようになりました。

午年の今年は12年に一度の巡礼の年にあたり、チベット最大の聖山カイラスを夥しい数の巡礼者が訪れます。カイラス(6656m)を一周する巡礼は全長52㎞に及ぶ過酷な道程、一生に一度は訪れたいと願う信者が今年は大勢聖地を目指すはずです。

実に楽しそうにカイラス体験を語る一枝さんの表情を見ているうちに、カイラスを巡礼したくなりました。会場で著書にサインを頂いたときの「私、チベット人に生まれたかった」という一枝さんの言葉が印象的でした。

叶うことならお百度参り―チベット聖山巡礼行

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