屋久島3泊4日の旅(中篇)|雨天の縄文杉トレッキングとオーバーツーリズム

天気予報どおり、2日目は生憎の雨。午前3時過ぎに起床し、<雨でこそ輝く屋久島の森>と自分に言い聞かせながら出発の準備を急ぐわけですが、テンションはどうしたって上がりません。縄文杉トレッキングは往復22kmの長丁場、半ば覚悟していた気象条件とはいえ、どんよりと垂れ籠めた雲が恨めしくてなりません。4時過ぎにフロントでおにぎり2セット(朝・昼用)を受け取ると、ヘッドランプを頼りに同行者ふたりと共に駐車場のレンタカーに乗り込み、荒川登山バスの停留所のある屋久杉自然館へ向かいました。ホテルから荒川登山バスの起点まで約15分、安房大橋を渡り800mほど先の点滅信号を右折すればあとは一本道です。

屋久杉自然館前駐車場に空きがあるか少し心配でしたが、着いた頃はまだ余裕がありました。雨の影響で登山者の出足が遅かったせいでしょうか。ところが、5:00始発のバスはすでに満席、次発5:20のバスに回されてしまいました。駐車場に着いたら、真っ先に前日に購入した登山バス券を座席券と引き換えておきましょう。乗車する順番がこれで決まります。バス待ちの間に朝食用のおにぎりを食べて腹拵えをします。雨天のトレッキングは、思った以上に体力を消耗するものです。行動食を適宜摂りながら、シャリバテ対策を怠らないことです。


最初の橋

小杉谷橋

屋久杉自然館前から荒川登山口までの所要時間は約40分。対向車とすれ違うのが困難な山岳道路(県道592号線:通称ランド線)が続きます。荒川登山口は思ったより開放的な空間で、始発組は身支度を済ませ準備運動に余念がありません。縄文杉トレッキングにおけるトイレは、荒川登山口を除くと僅か2ヶ所しかありません。ですから、出発前に水分を補給した上で必ずトイレを済ませておくべきです。出発し最初の橋(写真・上)を渡るとトンネルが現れます。2001年にトロッコ道が正式な縄文杉への登山ルートと認められるまで、手すりがついていなかったそうです。その先の小杉谷橋(写真・上)付近では、ツアー客が大勢立ち止まり、行く手を塞いでいました。先々、勾配の少ないトロッコ道(1923年開道し1969年まで現役でした)が延々8.5km続き、大株歩道(写真・下の右手階段を進む)から標高差400mの本格的登山道となります。雨によるスリップを少し警戒しましたが、幸い枕木で滑るような場面もなく、黙々と歩を進めました。

レインウェアの方が両手が自由になるので敢えて携行した雨傘を使いませんでしたが、この日のように風さえなければ、トロッコ道は雨傘を差して歩いた方が遥かに濡れずに済んだと思います。反省点のひとつです。

雨天では、スマホジップロックに収納してしまうので自ずと出し入れが億劫になります。勢い、晴天時に比べ撮影する写真の枚数は激減します。スマホやデジカメが浸水で逝ってしまうリスクは是が非でも回避するしかありません。翌日以降の撮影はおろか、復路の航空券二次元バーコードを表示できなくなるなど、スマホ故障に伴う不便は甚大だからです。

ウィルソン株まで3人一緒でしたが、そろそろ帰りのバスの時間が気になり始めました。ひと息ついていたHさんが「マイペースで行けるところまで行き、引き返すかどうか判断する」というので、若いO嬢と先を急ぐことにしました。<地獄の一丁目>と呼ばれる落差100mの階段をひたすら上ると、次々と同じような急勾配の階段が現れます。途中、ツアーのパーティを数組追い越し、片道5時間かけて「縄文杉」にたどり着きました。ほぼCTどおりのペースです。展望デッキの出来る1996年以前は「縄文杉」を間近で見れたようですが、現在は正面と左右の展望デッキから遠巻きに眺めることになります。登山者の踏み圧で巨樹の根元が荒らされることを防ぐためです。鬱蒼とした屋久島の森にあって、樹高25.3m、胸高16.4mの威容は凡そ人知の及ぶところではありません。巨樹の下に立つと、人間が誠にちっぽけな存在に思えてきます。雨に煙る「縄文杉」は、まさに森の王者にふさわしい神々しい存在でした。


正面デッキから見る「縄文杉


ウィルソン株のハート形天窓

ウィルソン株まで戻ると、空洞の切り株のなかにいたのは僅か一組。上りの喧騒が嘘のような静けさです。ハート形に切り取られた天窓を独り占めして、写真を一枚(写真・上)。ちいさな木魂神社に向かって、旅の安全無事を祈願してから、その場を去りました。

Hさんは、トロッコ道終点の大株歩道入口トイレ(写真・上)付近で小一時間も待機してくれていたようです。臭気が気になるトイレ内のベンチで腰を下ろすのが憚られた由、申し訳ないことをしました。Hさんには立ち止まらないで先を急いでもらうべきでした。2つ目の反省点です。山専ボトルから紙コップに熱湯を注いでオニオンコンソメスープを作り、冷え切った身体を温め、遅めの昼食を済ませました。

残る下山路は勾配の少ないトロッコ道だけです。O嬢とHさんの足取りが軽快になり、雨も心なしか小降りになってきました。上りで長蛇の列が出来ていた小杉谷山荘跡のバイオトイレ(紅麹で問題になっている小林製薬提供でした)で小休憩。苔むした門扉に近寄ることさえできなかった小杉谷小中学校跡の掲示板に目を通すことが出来ました。

縄文杉トレッキングの途中、7~8名のツアーを率いるガイドの無神経なひと言に何度かカチンときました。知ったかぶりして所謂マウントを取りにくるわけです。要所要所で渋滞を招き少人数のパーティ登山の妨げになっているのは、明らかにツアーの団体の方です。縄文杉トレッキングの場合、早朝の出発時刻は皆ほぼ同じですから、団体さんが招くトイレ渋滞や休憩渋滞は目に余るものがあります。さらに、往復22kmのトレッキングともなれば、相当な体力が要求されます。まして雨天ともなれば、体力的・精神的負担は増大します。一方、ツアー参加者の顔ぶれは様々で、肝心の登山の経験値や基礎体力は自己申告でしか計れません。どうしたって一番遅い人に合わせることになります。屋久島にかぎらず悪しきオーバーツーリズムを助長しているのは、お金を払いさえすれば目的地へ連れて行ってくれるこうした商業ツアーのあり方にあると思っています。旅の一歩は交通手段を確保するところから始まります。ネット社会の出現で自分流の旅をアレンジすることはずいぶん容易になりました。往復便と宿泊先を同時に手配できるJALダイナミックパッケージを利用するのも一計です。目的地が決まったら、地図を拡げて自分なりのプランを構想するところから旅は始まるのだと思うのです。


トンネル

終点の荒川登山口が見えました!

少し脱線しましたが、下りは至って順調で3人揃って荒川登山口に戻れました。16:00発のバスがやって来るまで、疲労困憊した同行者ふたりがベンチで寄り添うように仮眠する姿を見て、長い一日が終わったことを実感しました。翌日は念願の宮之浦岳アタックです。