御嶽山訴訟判決の教訓

一昨日、国と長野県を相手どって御嶽山噴火災害(2014年9月)の遺族が3億7600万円の損害賠償を求めた訴訟の一審判決(長野地裁松本支部)がありました。判決は、噴火前に火山性地震の顕著な増加(1日50回以上)が認められたにもかかわらず、噴火警戒レベルを引き上げなかった気象庁の判断を「許容された限度を逸脱し、著しく合理性に欠ける」と認定、違法性を肯定しました。

2007年に導入されたばかりの噴火警戒レベルは5段階に分かれていて、日本百名山にかぎっても、気象庁が噴火を警戒し常時観測している山は23にのぼります。関東圏では、常に噴煙が立ち昇る浅間山草津白根山がその例です。

噴火前の御嶽山の噴火警戒レベルは1の「平常」(注)でしたから、レベル2の「火口周辺規制」へ1段階引き上げてくれていたら、犠牲者(死者58人・ 行方不明者5人)の数が減った可能性は否定できません。現在の御嶽山の噴火警戒レベルは1ですが、火口周辺概ね500m以内は立入禁止になっています。

(注)2014年9月27日の御嶽山の噴火後「安全だという誤解につながる」という声が上がり、2015年5月18日14時より「活火山であることに留意」に変更されています。

御岳ロープウェイを使えば標高2150m(7合目)の山頂駅まで一気に行けてしまうので、火山活動への警戒心は緩みがちになります。紅葉シーズンの噴火時、行楽気分の登山者も多かったことでしょう。御嶽山の突然の噴火は、天候だけでなく噴火警戒レベルや登山道の状況確認など登山直前の情報収集がいかに大切か、かけが えのない教訓を残しました。一方、判決は、仮にレベルを引き上げていたとしても「立入規制が噴火までに確実に間に合ったとは言えない」として被告の 損害賠償責任は否定しました。原告は不服のようですが、妥当な判決だと思います。

気象庁には火山の専門家は少ないそうです。今回の判決は国民の生活や命に密接に関わる業務を担う気象庁に重い注意義務を課した恰好です。天災は 忘れた頃にやって来ます。気象庁がタイムリーに噴火警戒レベルを引き上げたとしても、必ずしも防災に直結するわけではありません。登山にかぎらず行楽全般 に言えることですが、自然災害から身を守るといっても自ずと限界があります。御嶽山の場合、登山者だけではなくその家族も、相応のリスクを抱えて自然と対峙していることを肝に銘じておくべきです。自然災害の多くは人災ではありません。地震や火山噴火予知に携わる専門家の絶対数の不足を考慮すると、今回の判決は厳しすぎる内容かも知 れません。御嶽山のようなケースにまで国や地方自治体の損害賠償責任を拡大すれば、税金が幾らあっても足りません。公務員に過剰な責任を負わせれば行政を萎縮させることにも繋がります。安全・安心をすべて国が保障してくれると考えるのは甘えだと思います。

行動にはリスクがつきものです。利益だけではなく不利益も甘んじて引き受ける覚悟が必要なのです。