確かに人生はオプションBの連続だ、けれども・・・


フェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグが、夫デーブの急死からどのように立ち直ったかを克明に綴った『OPTION B』(共著者は心理学者アダム・グラント)を読んで、確かに人生はオプションBの連続だと再認識させられました。仕事上の挫折や失恋の痛手とは比較にならないインパクトをもたらすであろう家族の突然の死に直面して、彼女は何を考えどう行動したのでしょうか。

前作の全米ベストセラー『LEAN IN』も然り、彼女はブックタイトルだけで読者の関心を惹きつけてしまう才能があるようです。誰にでも降りかかる可能性のある人生を打ち砕きかねない不幸な出来事に遭遇したとき、オプションBという選択肢をポジティブに捉えて掴み取るという態度が状況を改善してくれる(ことがある)、著者のメッセージをそんな風に受け止めました。本書の腰巻にある「次善の策」という訳語は似つかわしくないと感じました。

本書の副題、"Facing Adversity, Building Resilience, And Finding Joy"にも立ち直りのヒントが隠されています。レジリエンスとは元の状態に戻そうとする復元力のことですから、置かれた逆境に応じて復元力を培う処方箋は自ずと違ってきます。本書には様々な逆境に身を置いた人々の体験談が紹介されていて、共感できる言葉が幾つもありました。「考え得る最悪の事態(今より悪い状況)が起こっていたら」と考えてみることは、自分の経験上も悲しみを和らげてくれる効果があるように思います。翻って、親しい人が不幸な出来事に遭遇した場合、どう接するべきか、どんな言葉をかけてあげるべきか再考を余儀なくされます。他人の痛みを理解し想像することは筆者が指摘するように至難です。一番心に突き刺さったのは、不幸な出来事をきっかけに周りから人が消えていくという現象です。そっとしておいてあげようという心配りが却って逆境にある人を疎外してしまうわけです。

超一流のビジネスウーマン、シェリルが身を置くのは競争社会米国、周囲の友人知人も総じてインテリジェンスがあって理解力に富む人たちです。少しずつ時間が経つにつれて、彼女の内に秘めたレジリエンスの種が芽吹き、差し伸べられた救いの手でさらに大きく成長していったのでしょう。ある意味、彼女は逆境をバネに成長してもうひとつのサクセスストーリーを体現した格好です。

けれども、自分は本書が提示するような処方箋を受け容れることはできそうにありません。どんなに辛くてもその過酷な状況を独りで受け容れるしかないと思っています。不都合な真実である老病死と向き合うことこそ生きているということの実質なのですから。瀬戸内寂聴さんの言うように「孤独を生ききる」しかありません。本書で苦難からの立ち直りを妨げるとされる3つのPのひとつ、”Personalization(自責化)”は、仏教でいう因果応報や自業自得に他なりません。英訳すれば”What goes around comes back around”、本書を読んで人生観の彼我の違いに改めて気づかされます。