”The Monuments Men"の日本公開に寄せて

2014年に米国で製作された映画”The Monuments Men”(日本語タイトルは「ミケランジュロ・プロジェクト」)の本邦劇場公開が中止になって2年、このたびWOWOWでリリースされたのでじっくり自宅鑑賞したところです。昨年秋、一部の劇場でようやく上映されDVDも発売されましたので、まだ観ていない戦争映画ファンにはお薦めします。


本作は、第二次大戦中にナチスがヨーロッパ各地で略奪し隠匿した美術品を、連合軍の兵士たちがta探索し奪還するという史実を映画化したものです。聞き慣れない原題のモニュメンツ・メンとは、<記念建造物(モニュメンツ)・美術品(ファイン・アーツ)・公文書(アーカイヴズ>の頭文字から命名されたMFAA部隊に所属する兵士たちの総称です。監督主演を兼ねるG・クルーニーが脚本も手掛けています。昨年末話題になった「黄金のアデーレ/名画の帰還」が半世紀を経て持主の子孫の元に里帰りするのに対して、銃弾飛び交う戦場で貴重な美術品の奪還に挑む点が本作の見どころのひとつです。

実は、映画タイトルと同題の原作が存在し、2010年に日本語にも翻訳されています。当時、本書を読んで隠れた美術品救出プロジェクトの全容を知って大変驚いた記憶があります。全米批評家協会賞も受賞したその原作『ナチ略奪美術品を救え』と映画の相違点を意識しながら感想を述べていくことにします。

映画ではわずか7人のモニュメンツ・メンが登場するだけですが、実際には戦争終結まで60人ほどの英米人が略奪品奪還プロジェクトに関与しています。とはいっても戦場ではほんの一握りの数の専門家(学芸員や芸術家)が特命プロジェクトに従事したに過ぎません。邦題が「ミケランジュロ・プロジェクト」とされたのは、500万点を超える略奪文化財のなかで、ファン・エイクの「ヘントの祭壇画」と共に、捜索が難航したミケランジュロの「聖母子像」にスポットが当たったからでしょうか。フェルメールレンブラントなどの名画だけではなく無名の肖像画も登場しますので、やはりモニュメンツ・メンの方がふさわしい気がします。

殺伐とした戦場での捜索努力の傍ら、ナチ支配下のフランスの美術館でスパイ活動に従事するクレール・シモーヌという女性が、マット・デーモン演じるメトロポリタン美術館主任学芸員ジェームズ・グレンジャーに敵愾心を剥きだしにして協力を拒みます。彼女はナチに略奪された美術品が最後はメトロポリタン美術館に収蔵されると思ったからです。映画のもうひとつの見せ場です。

戦況が悪化するなか、モニュメンツ・メンは時間との戦いにも迫られます。連合軍は同盟国ソ連が進駐する前に占領地から撤退しなければなりません。ソ連はナチの略奪品を横取りしようと虎視眈々と狙いを定めています。一方、追い詰められたヒトラーは故郷リンツに総統美術館を建設する夢を諦め「ネロ指令」(ドイツが敗北した際には敵国に何一つ渡さず、すべてを破壊すること)を発令し、行方の分からない略奪品の運命は風前の灯となります。

モニュメンツ・メンのリーダー、フランクはこう言って同僚を鼓舞します。

「上層部の本音は、この作戦にはなから期待していない。戦争で大勢死ぬ、美術品なんか知るかだ。しかし、それは違う、文化や生き方を守るためだ。文化や歴史を破壊してしまったらすべては無となりあとは灰が舞うだけだ」

勇ましい戦果をあげて賞賛を浴びる戦士たちの陰で奮闘したモニュメンツ・メンの物語、これもまた命懸けの戦いでした。

ナチ略奪美術品を救え─特殊部隊「モニュメンツ・メン」の戦争

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