日本における韓国文学ブームの立役者・斎藤真理子さんと韓江(ハン・ガン)女史

9月7日付け朝日新聞beが一面フロントランナーで取り上げたのは、翻訳家の斎藤真理子さん。4歳上のお姉さんが文芸評論家・斎藤美奈子さんだと知って吃驚。血は争えません。韓流ドラマの人気ぶりは知っていても、近年、日本で韓国文学熱が高まっていることを露ほども知りませんでした。昨年、翻訳・出版された点数は過去最高だったそうです。韓国は、中国と並んで近くて遠い国とよく言われますが、韓国文学は日本人にとって身近な存在になっていたわけです。お恥ずかしいことに、過去韓国文学に触れたことはありませんし、数十ヵ国を旅しておきながら隣国・韓国を訪れたことさえありません。

記事のなかで、齋藤さんは朝鮮戦争が韓国文学の背骨だと仰っています。死者の数は数百万人を数えると言います。日本の戦後処理が進む時期、後に「済州島4・3事件」(1947-1954)と呼ばれる大虐殺事件が李承晩政権下の南朝鮮で勃発しています。齋藤さんは、この無差別大虐殺事件をモチーフにしたハン・ガン女史の『別れを告げない』を翻訳。民間人に多大な犠牲を強いた沖縄決戦との共通点を意識して、済州島の言葉を沖縄の言葉に置き換えたのだそうです。


ハン・ガン氏の近影©朝日新聞

ノーベル文学賞受賞に先駆けて、ハン・ガン女史は、2016年に英国で最も権威のある「ブッカー国際賞」を受賞しています。受賞作『菜食主義者』の日本語訳は、英訳より5年も早かったそうです。日本人翻訳者の感度の高さを示す端的な証しと受け止めました。自分が通った大学には、当時、第二外国語の選択肢に韓国語はなかったはずです。80年に韓国語を学ぼうと決意した斎藤さんに、先見の明があったことは確かです。ブックタイトルは=ベジタリアンですが、暴力へのアンチテーゼがテーマのようです。光州事件が自身の人生を変えたとハン・ガン女史は語っています。散文でありながら豊かな詩情を奏でている点が、ハン・ガン作品の共通項だと言われます。詩人としてデビューした女史の歩みにも注目してみようと思っています。

フロントランナーの記事をスクラップし、次の3冊をネット注文すべくノートに書名を書き留めておきました。3冊名を除き、初めて触れる韓国の文学作品です。

⚫︎『菜食主義者』(ハン・ガン著・きむふな訳・新しい韓国の文学1・クオン)

⚫︎『別れを告げない』(ハン・ガン著・齋藤真理子訳・白水社)

⚫︎『韓国文学の中心にあるもの』(斎藤真理子著・イーストプレス)


ハン・ガン女史ノーベル文学賞受賞を速報で知って、慌ててe-honで発注。在庫確認ができた旨すぐに返信があったのですが、翌日、注文殺到を理由に注文はキャンセル扱いになってしまいました。齋藤さん初の単著も含め、いまだに1冊も手元に届いていません。まるでノーベル文学賞受賞を予知するようなタイミングの記事だっただけに、ハン・ガン女史の本を即座に手配しなかったことを後悔しています。目下、増刷を待っているところです。