天城縦走路の思わぬ落とし穴~甘くなかった「天城越え」~

9月は国民の祝日が2日あります、「敬老の日」から「秋分の日」にかけて、年によっては5連休もあり得るので、<ゴールデンウィーク>に準えて<シルバーウィーク>と呼ばれるようになりました。実際、2026年には5連休が実現します。3連休前半は、昨年初めて訪れた居心地のいい南伊豆のキャンプ場を再訪することにしました。サイトは都内から200km以上離れていますから、1泊で撤収は如何にも勿体ないと思ったからです。あくまで主目的はオートキャンプですが、折角の3連休ですから、欲張って伊豆半島の背骨にあたる天城連山を攻略しようと考えました。

初日、天城縦走路の北側の起点・天城高原ゴルフコースで降車して妻とドライバーを交代、終点の<天城峠バス停>でピックアップしてもらう計画を立てました。コースタイム(CT)は7時間35分。その間、妻にテント設営を任せ、夕刻<天城峠バス停>までクルマで迎えに来てもらおうという段取りです。事故や渋滞含め何か不都合があれば、スマホでお互い連絡を取り合うつもりでした。我ながらいいアイディアだと内心ほくそ笑んでいたのですが、終盤、思わぬ落とし穴に嵌ってしまいます。


登山口バス停


天城縦走路入口

ゴルフコース手前にハイカー専用駐車場が設けられ、立派なトイレもありました。交通渋滞で予定より現地入りが1時間弱遅れました。伊東駅から路線バスを利用したとすると、登山口まで約1時間かかります。お手洗いを済ませたら、8:55着の路線バスが丁度到着し、登山客10数名が下車するところでした。<天城縦走路入口>(写真・上)は、道路を挟んだ反対側にあります。<四辻>、眺望が拓けた<万二郎岳>(1299m)を経て、天城連山最高峰<万三郎岳>(1406m)まで約2時間30分。縦走路を選択せず、ピークハントだけで<万三郎岳下分岐>で周回すればCTは4時間50分で済みますが、伊豆半島までやって来て、少し物足らない気がします。


万二郎岳(左)・万三郎岳(右)

正午過ぎ、<小岳>(1360m)を通過したあたりから雨が降り始め、<天城峠バス停>まで天気は下り坂のままでした。ひとりトレランに追い抜かれた以外、縦走路ですれ違ったのはわずか2名。アマギシャクナゲの咲くハイシーズンでも、交通の便の悪い縦走路をトレッキングする登山者は少数派ではないでしょうか。<戸塚峠>を過ぎたあたり、J23手前で倒木の目立つ下り坂(写真・下)を進んだため、コースを外れてしまうアクシデントに見舞われました。途中で真っ二つになった標識の片割れを発見。都合15分前後、ロスタイムが発生してしまいました。<八丁池>到着は14:10。ガスで視界を遮られ「天城の瞳」の異名がある肝心の景色はお預けです。ここで20分ほど休憩を入れて、温かいローズヒップティーで身体を温め、ミニ羊羹でカロリーを補充しました。行動時間が長いだけにシャリバテは禁物です。


J23地点の手前・下るとコースアウト


ガスに煙る八丁池


天城東急リゾートの<天城縦走路コース>マップ

ラスト2時間弱で痛恨のミスをやらかしました。今回の縦走は比較的難易度の低いトレッキングだと決めつけていたのが災いしました。現地に持参したのは、天城東急リゾートがHPで提供する<天城縦走路コース>マップ(写真・上)だけです。1本道でコースを外れる懸念はないと判断して、<八丁池>以降、細かい通過点や登山道の名称の確認をあらかじめ怠った結果、<上り御幸歩道入口>で右折しなければいけないのに、バス停のある<八丁池口駐車場>方向へ下ってしまいました。振り返れば、標識が見当たらないことに道々違和感を覚えていたのです。緩やかで歩きやすい下山路だったので、すっかり安心して、コースの誤りに気づくのが遅れました。<八丁池口駐車場>(写真・下)には修善寺駅行の路線バスが停車しており、数名が四阿で雨を凌ぎながらバスの出発を待っているようでした。雨脚は強くなる一方です。気も逸り、<寒天車道>(帰宅後に知った名前です)をひたすら下れば<天城峠バス停>に至るものと根拠のない決めつけから、先を急ぎました。ここから次第に不安が募り、とうとう途中でバスに追い越されてしまいます。


八丁池口駐車場の案内板


<寒天橋>の標識(<旧天城トンネル>まで1.2km)

16時過ぎにたどり着いたのは<寒天橋>。幸い、案内図(写真・上)があって右手へ1.2km迂回すると<旧天城トンネル>とあります。ここでやっと妻と約束した合流ポイントに戻れるのだと安堵しました。乗用車1台とすれ違いましたが、1.2kmのスロープがとても長く感じられました。16:20に<旧天城トンネル>の南側に到着、薄暗いトンネルを抜けると<旧天城トンネル北口園地>でした。ひとり男性が庇の下で休憩しています。国道414号線沿いの<天城峠バス停>は、そこから急斜面を下ればすぐです。愛車のハザードランプが点滅しているのに気づいて、ようやく人心地を取り戻せました。ヤレヤレです。川端康成の代表作『伊豆の踊子』の主人公(一高生だった作者を投影)が、旅芸人一座の踊子・薫と出会った<天城山隧道>(国重文)をじっくり鑑賞するゆとりのなかったことが悔やまれます。正確には、ふたりが出会った天城峠の茶屋は、1905年に開通した堅牢な石造りのトンネルの手前にあったそうです。


旧天城トンネル・南口(河津側)


旧天城トンネルの内部

妻曰く、スマホを幾度も鳴らしたそうですが、まったく気づきませんでした。天城縦走路では、スマホがほとんど電波を拾いません。軽々にスマホで連絡を取り合えると思っていたのは早計でした。山腹に奥深く原生林が広がり東西44km・南北24kmに及ぶ天城連山の大自然は、安易なデジタルライフを頑なに拒んでいるようです。

合流ポイントで50分も待たせてしまった妻には申し訳ないことをしました。下調べ不足が仇となり、終盤<上り御幸歩道>をトレース出来なかったので、次回<天城峠バス停>から<八丁池>をめざしてリベンジしようと誓ったところです。