パテックフィリップのGRAND EXHIBITION(2023)を振り返って

先月中旬、新宿住友ビル三角広場で開催されたパテックフィリップの<ウオッチアート・グランド・エキシビション東京2023>(会期:2023/6/10~6/25)に足を運びました。フライヤーのキャッチコピー「新宿・三角広場がジュネーブになる!」どおり、世紀の祭典と呼ぶにふさわしい大展覧会でした。東京で珠玉のタイムピース約500点が一堂に会するのは勿論初めてことです。

JR新宿駅西口改札から地下通路に通じるスペースに向かうと支柱広告がすぐに目に飛び込んできます。会場に到着して先ず度肝を抜かれるのは、パテックフィリップの本社のあるジュネーブのシンボル・レマン湖畔を再現してみせる設え。湖上に吹き上がる大噴水や花時計が来館者を出迎えてくれます。開場前の長蛇の列に加え来場者に20代30代の世代が目立ったのに驚かされました。

パテックフィリップはスイスを代表する高級時計メーカーにして最上級ブランド。6月15日付け朝日新聞夕刊の見出しに<「買えない時計」華麗な世界」とあるように、今や、SS製のスポーツウオッチの代名詞「ノーチラス」や「アクアノート」でさえ入手は至難の業となっています。かつて200万円以下だった定価も2倍近くになり高嶺の花と化しています。

20年ほど前、専門店スフィアの店長の計らいで入手したパワーリザーブ付き「ノーチラス3710/1A-001」を身に着けるたびに得も言われぬ満足感を味わっています。会場で愛用「ノーチラス」のブレスレットやベゼル(bezel)組み立て工程を確認できたのは大きな収穫でした。創業者のひとり、アントワ―ヌ・ノルベール・ド・パテック(1812-1877)の誕生日が自分と同じだと知って奇縁さえ感じています。

コンプリケーションモデルに至ってはミュージアムピースと言う他ありません。庶民には縁遠い至高のタイムピースを観覧料無料で見せるパテックフィリップの懐の深さに畏敬の念を払わないわけにはいきません。パテックも企業である以上、次世代顧客層は急務とは云え、これほど多くの若い世代を集客し得たのは期待以上の成果だったのではないでしょうか。

機械式時計に欠かせないのはメンテナンス。神田にアフターサービスを手掛ける同社のサービスセンターがあります。ムーブメントを扱える時計師は15人。スイス本社研修が義務けられており、ひとりの時計師が一貫してメンテナンスを担当するのだそうです。彼らの殆どが渋谷にある「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」の卒業生なのだと知りました。2時間超の滞在終盤、ブースで実演修理する若き時計師を取り囲む来場者の熱気に圧倒されました。機械式時計は便利で安価なスマートウオッチとは異次元の存在です。にもかかわらず、機械式時計の精巧なムーブメントやクラフトマンシップに魅了されるスマホ世代が一定数存在することに大いに共感しているところです。