「特別展 天空ノ鉄道物語」@森アーツセンターギャラリー~懐かしい時刻表が勢揃い~

森アーツセンターギャラリーで開催中の「特別展 天空ノ鉄道物語」へ足を運びました。入場料は2500円と少し高めの設定ですが、鉄道ファンならずとも十分料金に見合う内容の展覧会だと思います。六本木ヒルズ52階全フロアが会場になっていますから、展覧会を楽しんだあと外周をひと回りすると360度の大パノラマが楽しめます。訪れた日は曇り空でしたが、雪化粧した富士山を望めました。竣工したばかりの新国立競技場が巨大なことに驚かされます。20:00まで開館していますので、夕方会場入りして夜景を楽しむのもいいでしょう。

会場入口でチケットを提示し<天空駅ゆき>と書かれた入場記念切符を受け取り、刻印機(Dating Machine)に切符を通して日付を入れます。切符は、懐かしい「硬券(こうけん)」と呼ばれる厚い紙に印刷された切符です。大学生の時分、現地で買い求めた旧国鉄広尾線の<愛国から幸福駅>への乗車券は今も大切にしています。SUICAに代表されるICカード乗車券は便利この上ない代物ながら、旅情の欠片もありません。通勤・通学はICカードで済ませるとして、鉄道の旅を楽しむとき、記念に残る「硬券」があったなら、きっと心が弾むに違いありません。

国鉄時代に限りなく郷愁を覚える世代には、<硬券>の刻印に始まり、次は今や殆ど姿を消したブルトレヘッドマークですから、もう堪りません。実際に乗車したことのある「北斗星」や「カシオペア」にはとりわけ深い思い入れがあります。2015年3月のダイヤ改正で最後まで残っていた「北斗星」が臨時列車に格下げになったと報じられたときは涙腺が緩みっ放しでした。同年8月22日の札幌発上野行「カシオペア」の臨時運行を以て、約60年に及ぶブルトレの歴史は幕を閉じたのです。新幹線や飛行機の普及に伴い利用客が減少、致し方ない結末とはいえ、いざブルトレがすべて姿を消してしまうと淋しいかぎりです。JR九州の「なんつつ星in九州」や「TRAIN SUITE四季島」の運賃はバカ高くて、乗車できるのは一部の富裕層に過ぎません。こうしたクルーズトレインとブルトレの大きな違いは後者がさまざまな人生を乗せて走ったことに尽きます。帰省、進学・就職、冠婚葬祭、新婚旅行や記念旅行・・・・夢や希望、落胆、悲しみ、歓び、これほど人の気持ちに寄り添って走った列車はブルトレ以外にありません。1988年3月の青函トンネルの開通に伴い、同年9月に廃止された青函連絡船も、ブルトレ同様、さまざまな乗船客の喜怒哀楽と重なります。

日本国有鉄道からJRへ。本州の大動脈を押さえるJR東日本JR東海は分割民営化の恩恵を最大限享受していますが、JR三島会社、即ちJR北海道JR九州JR四国JR貨物を加えた4社の経営は極めて厳しい状況にあります。JR7社の経常利益の90%以上を本州3社が稼ぎ出すという現実に慄然とさせられます。特に、JR北海道の窮状ぶりは目を覆わんばかりです。さりげなく展示されている廃線に係る看板は殆どがJR北海道管内のものでした。懐かしい思い出に浸りながらも、国鉄民営化がもたらした負の側面が透けて見えてくるのでした。

圧巻は1964年から2019年までの大判時刻表表紙(現JTB編集)の展示でした。好事家は、一冊かぎりのJNR編集の「JR時刻表」(JR発足時の1987年4月)に目が行くことでしょう。時刻表を開くことも見ることもなくなってずいぶん久しくなります。Yahooの路線情報でいとも容易く料金や乗車時間が分かるようになったからです。大学入学当時の時刻表表紙を見ると、懐かしい記憶が次々と呼び覚まされました。

鉄道ドアのインスタレーション、子供向けの運転シュミレーションやプラレールの展示もあって、お子様連れでも十分楽しめます。帰りしな、自宅最寄駅の復刻<硬券>キーホルダー付を購入。見どころ満載の本展、是非、お出掛け下さい。