厳冬のオホーツク海沿岸を旅する(3) 〜濤沸湖に魅せられて〜

今回の弾丸流氷ツアーのハイライトは濤沸湖(とうふつこ)でした。濤沸湖は、オホーツク海の一部が堆積した土砂の形成した砂州によって切り取られた「海跡湖」です。翌日、ロングドライブで訪れることになったサロマ湖(北海道で最大の湖)や近隣の能取湖も同じタイプの湖です。英語圏のLagoon(ラグーン)に相当します。

ただ、完全に外海と遮断されているわけではなく、この時期は海水と共に流氷も湖口から流入してきます。海水と淡水が混ざりあう汽水湖であるため、多様で豊かな生態系が形成されていることが濤沸湖の貴重な特性と云えます。四季を通じて250種もの野鳥が見られるのもそのためです。

現地を訪れ中国人観光客が多いのには驚きました。しかも、本格的な双眼鏡を手にしている人が少なくありません。中国の中流層が豊かになって、物見遊山的な旅行からエコツアーに一歩踏み出したような印象を抱きました。雪景色の湖面には、オオハクチョウやタンチョウなどが羽を休めていました。

ただ残念だったのは、湖に隣接する濤沸湖水鳥・湿地センター内部に足を運ぶ外国人観光客が皆無だったこと。そのお蔭で同センターを暫し独り占め。女性スタッフの秋山さんからたっぷりとレクチャーを受けることができました。尾瀬にも6年いらしたという秋山さん、濤沸湖の織り成す自然に深い愛情を注いでおられることが語り口からひしひしと伝わってきました。

ラムサール条約の登録湿地は国内で50を数えるそうで、濤沸湖も2005年に湿地登録されています。尾瀬に代表される高層湿原に対して、平均水深1メートルの低層湿地帯の濤沸湖には、オオハクチョウやタンチョウに代表される水鳥の生息を支える巧妙な自然メカニズムが整っています。

そして何よりの収穫だったのは、絶滅危惧種で日本最大の猛禽類オオワシをセンターの高倍率望遠鏡で捉えることができたこと。太く湾曲した黄色い嘴が目印で、鋭い眼光で落葉樹の突先から湖面を睥睨しています。秋山さん曰く、湖面の水鳥を狙っているのだそうです。魚だけではなく水鳥も捕食するとはさすが猛禽類の王者です。遠すぎて持参した望遠レンズの性能では撮影はお手上げでしたが、目を凝らすうちに枯れ枝に潜む黒い影を徐々に見つけることができるようになりました。2日目、顔かたちがコノハズクに似たチュウヒの撮影には成功しました。

2日目はまだセンターも開館していない早朝に訪れたので、凛とした空気の心地よいこと。濤沸湖の先には、前日、暴風雪で雲隠れしてしまった斜里岳(標高1547メートル)がくっきりと全貌を顕わに。大型望遠レンズを構えた男性がひとり湖畔に佇む光景があまりにフォトジェニックだったのでもう一枚。