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パテックフィリップ展(2014.1.17〜19)と『米欧回覧実記』

先月中旬、神宮外苑にある絵画館で開かれたパテックフィリップ展を見てきました。絵画館の正式名称は聖徳記念絵画館といいます。外苑銀杏並木から西真正面に見える洋館がその絵画館です。明治天皇昭憲皇太后のご遺徳を後世に伝えるために建設された建物(大正15年竣工)は実に威風堂々とした佇まいで、遠目には国会議事堂のようにも見えます。過去一度訪れたきりですが、時期も経緯もすっかり忘れてしまいました。スフィアから招待券を頂戴しなかったら、二度目の入館はなかったかも知れません。

当日正午過ぎ、外苑駐車場に車を入れようとすると満車の表示、30分近く待たされることに。入庫を済ませ会場に向かうとこれまた長蛇の列、寒空の屋外ですからカイロが配られていました。スイスを代表する高級機械式時計メーカーの展覧会がかくも盛況なことに思わず首をかしげてしまいました。一番安いものでも150万円は下らないパテック社の時計に興味をもつ人がこれほどいること自体、驚きではありませんか。若いカップルの姿が目立ちました。どんなマイナーな展覧会に出掛けてもそこそこ人がいる、東京とは本当に不思議な街です。

パテックの時計を買うと本社のカスタマーリストに名前が載ります。このサービスがパテックファンの購買心理を巧みにくすぐります。30代で定番カラトラバを手に入れ、次いで普段使いにとノーチラス(ref.3710/1A)を買ったので、自分の名前もリストにあるはずです。ヴィクトリア女王エリザベートのペンダントウォッチをはじめ著名人の由緒あるタイムピースが勢揃いしたこの展覧会は実に見応えがありました。トルストイチャイコフスキーの懐中時計からは、刻まれた歴史の重みが伝わってくるようでした。展示された時計の大半が恐らくは1点もので特別誂えのガラスのショーケースに収まっているため、パテックフィリップの誇る複雑な時計機能はヴェールに包まれたまま。一度でいいからミニッツリピターの音色を聞いてみたいものです。

時計もさることながら、今回のお目当ては特別展示の『米欧回覧実記』でした。岩倉使節団の見聞録である『米欧回覧実記』を知ったのは、大学の日本近代史の授業のときです。岩波文庫の校注は担当教官だった田中彰教授が手掛けています。岩倉使節団の『米欧回覧実記』は最高級のノンフィクションのひとつです。明治を代表する政治家4名(岩倉具視木戸孝允大久保利通伊藤博文)が1年10ヶ月の長きにわたり日本を離れ、米欧を外遊するとは驚天動地の試みではありませんか。この外遊がその後の日本にもたらした果実は計り知れません。政治や経済・産業にとどまらず諸外国の文化を広く吸収したことが、この外遊の最大の恩恵だと云えます。

岩倉使節団明治6年1873年)7月1日にパテック社を訪れています。一部を紹介しておきます(『特命全権大使 米欧回覧実記(五)』102頁より)。

<七月一日、十時ヨリ「パテック、ヒリップ」氏ノ袂時儀製造場ニ至ル、「パテック、ヒリップ」氏ハ露西亜人ニテ、此ニ移住ス、「セネバ」湖ノ南浜ヲシメ、長橋ノ衝頭ナル塵ニアリ、塵内及ヒ外に於イテ(外トハ工人家々ニテ作リ持来ルナリ)日日三千ノ職人ヲイレテ、製造ヲナス」

特命全権大使 米欧回覧実記1 (岩波文庫 青141-1)

特命全権大使 米欧回覧実記1 (岩波文庫 青141-1)