2021年歌舞伎界回顧|+南座の吉例顔見世『身替座禅』(仁左衛門 X 芝翫)

コロナ禍の影響で前年に引き続き、2021年の歌舞伎座は大幅に客席数を間引いて3部制(月によっては四部制)を継続しました。昼夜二部制の時代がそろそろ恋しくなりました。幕間に客席で頂くお弁当や名物「めでたい焼き」を楽しみにしている観客にとって、此の2年間はひとえに忍耐でした。オリンピックイヤーに行われるはずだった第十三代市川團十郎襲名披露公演時期も未定のままですから、歌舞伎ファンのストレスは尋常ではないはずです。

2021年歌舞伎座の注目演目は間違いなく四代鶴屋南北作『桜姫東文章』(4月・6月)でした。36年ぶりに復活した孝玉コンビ改め仁玉コンビの妖艶にして頽廃的な舞台は大喝采を浴びたようです・・・というのも家内にチケットを奪われ自分は観ていないからです。9月、『東海道四谷怪談』で仁玉コンビの円熟の境地を見せつけられました。おふたりが古希を迎えていることを一瞬たりとも感じさせない誠に凄みのある舞台でした。

晦日を4日後に控えた12月27日、<中村芝翫に3度目の不倫報道…30年献身の妻・三田寛子に広がる同情>というヘッドラインを見て、目が点になってしまいました。芝翫さんが奥方玉の井役で出演した7月大歌舞伎第二部『身替座禅』(岡村柿紅作)が即座に脳裡をよぎりました。ひとまず、『身替座禅』のあらすじをご紹介します。山蔭右京(白鷗)は恐妻家にして浮気者のお殿様。都にやって来た愛人花子との逢瀬を願う一心から外出しようと奥方玉の井芝翫)を説得しようとするのですが、どうにも上手く運びません。ここで常磐津語り<暫し思案に沈みしか、良いことを思いついた>

右京:「あっ、良い事を思いついた」「夫(それ)なれば持仏堂に閉篭り七日七夜の座禅ないたそう」

玉の井:「夫は一段とようござります」「夫なれば妾がお傍につないていて湯も茶も取て進ぜましょう」

右京:「いやいや女は魔性」「女と目と目を合わすれば座禅得度成りがたしと申せば必ずそちの見舞う事なるまいぞ」

玉の井:「夫なら是もなりませぬ」

(中略)玉の井が頑として承知しないので、侍女ふたりが奥方にあまりにも主が可哀想だと翻意を促すと

玉の井:「夫なれば今宵一夜の暇を進ぜましょう程に」「座禅とやらを遊ばしませ」

一計を案じた右京は、嫌がる家来の太郎冠者(中村隼人)を身替りに仕立てて、衾(ふすま=寝るときに体を覆う夜具)で顔を隠させ持仏堂に篭るよう命じます。ところが、右京のことが気になって仕方がない玉の井は侍女を伴い邸内の持仏堂を訪ねます。身替りは見破られ、逆に玉の井が太郎冠者になりすまして、夫右京の帰りを待つという展開です。とんでもない修羅場が右京を待ち構えることになります。

12月26日夜、NHK「古典芸能への招待」で南座吉例顔見世『身替座禅』が放映されました。右京を仁左衛門が、奥方玉の井は7月大歌舞伎同様、芝翫が務めました。一見、山蔭右京は喜劇風の軽妙な役柄に映りますが、仁左衛門さんが演じると俄然右京のかわいげのある人物像が際立ってきます。逸り立つ夫の浮気心が生々しく見えないように、程よく抑制を効かせた演じ方だと感心しました。愛するあまり鬼瓦と化す妻も然りです。前半は狂言立て、後半は歌舞伎舞踊の要素満載です。

<笑わせようとするのではなく、あくまでも品を大切に、自然に笑っていただけるよう演じたい。男のかわいさも大事で、世の女性方から怒りを買わないような人物を作りたいですね>と語る仁左衛門さんの芸域の深さに惚れ込んでしまいました。そんな京都・南座の公演中、東京不在をいいことに芝翫さんは火遊び・・・鬼瓦ならぬ献身的な妻に合わせる顔がないとは思わなかったのでしょうか。芝翫さんの役柄と今回の不倫報道のギャップに思わず苦笑してしまいました。