ブックレビュー:『フランスの小さくて温かな暮らし365日』

年明け、オミクロン株の感染者が急増。この2年間お預け状態の海外渡航を今年こそ再開と意気込んでいたのですが、年初から雲行きが怪しくなってきました。航空会社や旅行代理店には厳しい事業環境が続きそうです。もうしばらく、TBS『世界遺産』をはじめ海外の観光地にスポットを当てたテレビ番組で辛抱するしかありません。

ステイホームカントリーのストレスを緩和してくれるのはテレビ番組に限りません。去年3月、近所の書店で衝動買いした『フランスの小さくて温かな暮らし365日』(自由国民社刊)は、1頁ごとにテーマに即した写真一枚を添えてフランスの365分の1日を次から次へと紹介してくれます。日めくりカレンダーのようでもあり歳時記のようでもあり、パンデミックの渦中で読むとじんわりと日々の営みの大切さが伝わってきます。作者は、パリとフランスの情報サイト<トリコロル・パリ>を運営する荻野雅代さんと桜井道子さんです。おふたりは学生時代にフランス語と出会い、映画や音楽、小説とフレンチカルチャーに親しんでいったそうです。フランス語に限らず、住みたい国や訪れたい国の言葉を少しでも話そうと努めるとお互いの距離感が一気に縮まります。

今日1月6日(6|janvier)はフランスではどんな1日なのでしょうか。283/365の小見出しには「誰が王冠をかぶる?真剣勝負のガレット」とあります。新年、神戸屋をはじめベーカリーの店頭でも見かけるようになって久しいのでご存じの方も多いのではないでしょうか。アーモンドクリームの入った焼き菓子のことで、中に”fève(フェーブ)”と呼ばれる陶製のマスコットがひとつ隠れています。人数分で切り分け、フェーブが当たった人にはその1年幸運が訪れるとされます。当たった人は「ガレット」についてくる紙製の王冠を頭にのせてお祝いします。東方三賢人が幼子イエスを訪問・礼拝した1月6日(=「公現祭」)に「ガレット・デ・ロワ(王様のパイ)」を食べるのが正式な習わしなのだそうです。

年の始め1月の別の日にはこんなことが書かれています。フランスにはお正月に華やぎを添えるお正月飾りやおせち料理のような特別料理もなく、パリ在住の作者さんおふたりはいまだにそのあっけなさに馴れないのだそうです。一方、中国料理が浸透しているせいでしょうか?十二支に通じているフランス人が多いのは意外でした。但し、羊は山羊にイノシシは豚に置き換えられているようです。

行きたくても行けない異国の地。せめてもの心の旅にいざ出でん。

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。(後半略)
  (萩原朔太郎『純情小曲集』より)