「世界報道写真展2016」から見えてくる世界の姿

2014年9月から2年あまり改修工事のため閉館していた東京都写真美術館が、今月3日にリニューアル・オープンしました。リニューアルに伴い、「トップミュージアム(TOP MUSEUM)」という愛称も決まり、シンボルマークが一新されていました。ミュージアムショップのあるエントランスホールが開放的な空間になっていて好感が持てました。

早速、リニューアル記念展となる「世界報道写真展2016」(〜10/23迄)を覗いてきました。毎年開催されるこの写真コンテストを見ると、日本のメディアによる報道からは到底伝わってこない世界情勢の一端を窺い知ることができます。迫真に迫る1枚の写真には活字の何十倍もの説得力があります。


今年の大賞を受賞したのは、セルビアハンガリーの国境を越えようとするシリア難民の姿を捉えたものでした。月明りのなか、有刺鉄線越しに小さな子供を手渡しするその瞬間がモノクロ写真に収められています。国連の難民支援機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、危険を顧みず地中海を渡ってヨーロッパに移動したシリア難民100万人に加え、660万人の人々が住み慣れた故郷を離れ国内の別の土地への移住を余儀なくされ避難民となっているようです。

シリアの内戦は5年目に突入し、今回の写真展でも、シリア難民に取材した写真が数多く出品されていました。立錐の余地のないくらい難民が乗り込んだゴムボートの写真を見ると、幼い子供を伴った家族連れが多いのに気づかされます。難民生活では子供の将来が拓かれることはないと判断した親達が、命懸けで子供を連れて密航を企てるのです。

相次いで移民・難民による殺傷事件が起こる最中、すでに100万人以上の難民を受け容れたドイツのメルケル首相は難民受け容れ政策を継続すると断言しています。ドイツに入国する難民の半分はシリア出身だといいます。厳しい世論に晒されながらも、寛大な難民政策を継続するメルケル首相の眼には、内戦の続く過酷なシリア情勢がしっかりと刻まれているのでしょう。重い代償を支払わされたと片面的にドイツを揶揄するメディアには、メルケル首相の真意が見えていないに違いありません。

本写真展には、現代社会に潜む問題にフォーカスしたものだけではなく、昨年4月ネパールを襲った巨大地震に取材したものや、カメレオンやアフリカゾウなど絶滅や密漁乱獲の危機に瀕している生き物を対象にした写真も展示されています。振り返れば、2015年も激動の年だったことが分かります。