タルト・タタンの故郷

<「タルト・タタン」発祥の味わいが日本初登場><現地のレシピを再現した美味しさを、この機会に>というキャッチコピーに吸い寄せられて、今日、伊勢丹新宿本店の催事場まで足を運んでしまいました。4/18付け伊勢丹通信のカバーに掲載されたタルト・タタンのカラー写真に至っては実に悪魔的で、タルト・タタン好きなら間違いなく抗拒不能に陥ります。

特にスイーツ全般が好きというわけでもないのに、タルト・タタンだけには目がありません。自称、筋金入りのタルト・タタン好きで、紅玉が出回る時期になると自家製タルト・タタンを作ったりもします。美味しいタルト・タタンの店があると聞いたりすると、心穏やかではいられなくなります。昨夏は、学芸員資格講座受講中に早稲田界隈で美味しいお店があると小耳に挟んで、アフターランチにカフェGOTOに出掛け真っ先にタルト・タタンを注文しました。

ところで、タルト・タタン誕生の背景には面白い逸話があります。時は19世紀後半、パリ南方のソローニュ地方でホテル・タタンを経営していたタタン姉妹が、ある時、りんごのタルトを作っていて、焼く時にうっかり間違えてタルト生地を入れ忘れてしまったそうです。型の中にりんご、砂糖、バターだけを入れて焼いてしまったので、仕方なく、途中で上から生地をかぶせてみたら、意外にも、底にたまったお砂糖がキャラメル状になってりんごに染み込んで、なんとも香ばしいすてきな味になったというわけです。それ以来、このお菓子は、最初から逆のレシピに従って焼かれるようになり、タタン姉妹のタルトということで、タルト・タタン(或いはタルト・ランヴェルセ[Tarte renversée=逆さまのタルト])と呼ばれるようになったのです。

ホテル・タタン(オテル・タタンは現存しています)のレシピを元に現地の味を再現したのは、東北沢<パティスリー・ル・ポミエ>のパティシェ、フレデリック・マドレーヌ氏です。催事場のある6階のイートインには長蛇の列が出来ていました(新緑の季節に大量のタルトタタンを作るための肝心の材料リンゴはどこから仕入れたのか不思議でなりませんが)。イートインでの試食は諦め、3カットをテイクアウト。食べてみると甘さは思ったより控え目だったので1ホールでもいけそうな感じでした、シナモンの風味づけは一切ありません。焼き上がりはダークブラウンでリンゴの形状をある程度残して拵えてあります。元祖タルト・タタンは思ったとおりの素朴な味わいでした。イートインではフランボワーズやアールグレイのキャラメルソースを添えて供されていたようですが、個人的には生クリーム添えが一番だと思います。今年も大ぶりの紅玉が手に入る深秋になったら、タルト・タタン作りに精を出すつもりです。