厳冬のオホーツク海沿岸を旅する(1)〜流氷なしの「おーろら号」篇〜


折しも、数年ぶりという爆弾低気圧が襲った今月2日に北海道を訪れました。地球規模で温暖化が進むと厳冬のオホーツク海の風物詩流氷も見ることも叶わないようになるのではと思い、1泊2日の弾丸ツアーに挑みました。目指したのは網走、流氷を見るならここか紋別を訪れるしかありません。紋別の「ガリンコ号」は網走の砕氷船より小型で総重量は約150トンです。

網走の「おーろら号」(写真下)は、総重量491トン、乗船可能人員は450人という世界でも珍しい大型観光砕氷船です。最大砕氷能力は80センチですから、分厚い流氷さえ船体で砕きながら進むことができるというわけです。砕氷のメカニズムの基本は、船首の重さと推進力。砕氷能力を超える流氷に遭遇した場合は、チャージング砕氷と呼ばれる後進・前進を繰り返す方法で対処するのだそうです。片道10キロの沖合まで行くことができるのも、こうした高い砕氷能力の賜物です。

3/2の9:30出航の第1便と飛行機(羽田→女満別)の延着に備えその日の最終便(4便)にも予約を入れておいたのですが、猛烈な低気圧接近で暴風警報が発令され、その日の全便が欠航となってしまいました。今年の流氷接岸初日は2/2、以降、比較的良好な出航状況が続いていただけに大変残念な結果でした。

代わりに・・・「おーろら号」の船内を見学。階下には映写室があって、力強い砕氷の様子を映像と音で確認することができます。展望デッキはタイ人の団体客が占拠、海外からやってくる観光客はさぞやがっかりだったことでしょう。低気圧がもたらした暴風の影響で、翌日は遠い沖合にまで流氷が押し戻され、やはり流氷を見ることは叶いませんでした。網走市内に数日滞在できるのであれば、我慢強く、流氷到来の好機を待つのも手です。その日の風と潮流に大きく左右される流氷観察は次のシーズンまでお預けとなりましたが、流氷に関する知識だけは人一倍豊かになったような気がします。


乗船便に流氷がなかった場合、次のようなオプションがあります。ご参考まで。

最悪: 欠航
オプションA:観光遊覧(流氷がない場合)(お値段は流氷がある場合より安くなります)
オプションB :同日の別の便を予約(但し、第1と第3便の当日予約は至難)
オプションC:オホーツク流氷館を訪れる

厳冬のオホーツク海沿岸を旅する(2) 〜吹雪ドライブ初体験記〜

天候急変で「おーろら号」乗船を断念、プランBに頭を切り換えました。季節や天候に左右されるイベントは旅には付き物、団体旅行ではメインイベントがこけてしまうと修復不能なダメージを被りかねません。春の花見ツアー企画などはその典型かも知れません。

週間天気予報である程度天候急変を予期していたので、今回は女満別空港で4WDのコンパクトカーを借りることにしておきました。個人旅行の場合、自家用車やレンタカーで移動の自由さえ確保しておけば、機動的にバックアッププランを行使できるからです。北海道を旅行する場合、札幌などの例外を除けば、運行本数の少ない列車移動に頼ることは危険です。冬場はなおさらです。3月2日は、発達した低気圧が通過した影響で、JR北海道が1日に運行する全列車の4割に当たる545本が運休となってしまいました。

翌3月3日にウトロで流氷ウォークに参加する予定だったので、宿泊先は網走とウトロの中間地点の斜里町に手配してありました。これが思わぬ災いを招くことになります。初日の最終観光地「博物館網走監獄」を出たのが15:45、そこから目的地のJR知床斜里駅前までは約43キロ。1時間足らずで到達できる距離です。

ところが俄かに暴風雪の勢いが増し、次第に視界が遮られるような状況に。対向車だけではなく後続車にも存在を察知されるようにと前照灯を点灯、先を急ぐと大型の除雪車が向かってきます。こうなるとスピードダウンするしかありません。斜里国道(244)から道道769号線に入ると、さらに天候は悪化、北西から容赦なく暴風雪が襲います。防雪柵がない場所では幾度もホワイトアウトに近い状況に陥りました。<北の道ナビ>によると、雪の量X風速が大きくなると視程障害が顕著になるということです。

最大の難所は目的地まで2キロ足らずに迫った地点。対向車とすれ違ったのでナビに従い通行止めの標識は無視して進むことに。わずか1.2キロを15分はかけたでしょうか、何とか切り抜ける日没前にホテルにチェックインできました。確認すると対向車線も通行止めになっていました!夜間除雪を行わない道路であることを、翌朝再び通過して知りました。幸いだったのは、日没前に目的地に到達できるようにと、余裕をもって早めに網走観光を切り上げたことでした

「道の駅」には<吹雪ドライブのコツ>と題するパンフが常備されていて、あらかじめ目を通しておけば、今回のような危機的状況に上手く対処できそうです。「吹雪ドライブ」という言葉は初耳でした。初めて体験した「吹雪ドライブ」を通して得た教訓を以下整理しておきます。

1.前照灯は必ず点灯する
2.十分な車間距離と減速を心掛ける
3、レンタカーの場合、4WD車を手配する
4、タイヤハウスの雪だまり(づまり)の頻繁な除去(スノースクレーパーの有無の確認)
5. ヘッドランプ・テールランプの雪の除去
6.雪景色からトンネルへの暗順応に注意(ブラックアウトになるので減速マスト)
7.フロント・リアウインドへの頻繁なワイパー(ウィンドウオッシャー液補充)

厳冬のオホーツク海沿岸を旅する(3) 〜濤沸湖に魅せられて〜

今回の弾丸流氷ツアーのハイライトは濤沸湖(とうふつこ)でした。濤沸湖は、オホーツク海の一部が堆積した土砂の形成した砂州によって切り取られた「海跡湖」です。翌日、ロングドライブで訪れることになったサロマ湖(北海道で最大の湖)や近隣の能取湖も同じタイプの湖です。英語圏のLagoon(ラグーン)に相当します。

ただ、完全に外海と遮断されているわけではなく、この時期は海水と共に流氷も湖口から流入してきます。海水と淡水が混ざりあう汽水湖であるため、多様で豊かな生態系が形成されていることが濤沸湖の貴重な特性と云えます。四季を通じて250種もの野鳥が見られるのもそのためです。

現地を訪れ中国人観光客が多いのには驚きました。しかも、本格的な双眼鏡を手にしている人が少なくありません。中国の中流層が豊かになって、物見遊山的な旅行からエコツアーに一歩踏み出したような印象を抱きました。雪景色の湖面には、オオハクチョウやタンチョウなどが羽を休めていました。

ただ残念だったのは、湖に隣接する濤沸湖水鳥・湿地センター内部に足を運ぶ外国人観光客が皆無だったこと。そのお蔭で同センターを暫し独り占め。女性スタッフの秋山さんからたっぷりとレクチャーを受けることができました。尾瀬にも6年いらしたという秋山さん、濤沸湖の織り成す自然に深い愛情を注いでおられることが語り口からひしひしと伝わってきました。

ラムサール条約の登録湿地は国内で50を数えるそうで、濤沸湖も2005年に湿地登録されています。尾瀬に代表される高層湿原に対して、平均水深1メートルの低層湿地帯の濤沸湖には、オオハクチョウやタンチョウに代表される水鳥の生息を支える巧妙な自然メカニズムが整っています。

そして何よりの収穫だったのは、絶滅危惧種で日本最大の猛禽類オオワシをセンターの高倍率望遠鏡で捉えることができたこと。太く湾曲した黄色い嘴が目印で、鋭い眼光で落葉樹の突先から湖面を睥睨しています。秋山さん曰く、湖面の水鳥を狙っているのだそうです。魚だけではなく水鳥も捕食するとはさすが猛禽類の王者です。遠すぎて持参した望遠レンズの性能では撮影はお手上げでしたが、目を凝らすうちに枯れ枝に潜む黒い影を徐々に見つけることができるようになりました。2日目、顔かたちがコノハズクに似たチュウヒの撮影には成功しました。

2日目はまだセンターも開館していない早朝に訪れたので、凛とした空気の心地よいこと。濤沸湖の先には、前日、暴風雪で雲隠れしてしまった斜里岳(標高1547メートル)がくっきりと全貌を顕わに。大型望遠レンズを構えた男性がひとり湖畔に佇む光景があまりにフォトジェニックだったのでもう一枚。