4年越しのキオクシア上場は公募割れスタート〜日本の半導体産業は復活できるのか?〜

今年の前半、日本の株式相場を牽引したのは半導体産業でした。ところが、7月に入ると一気に下げ足を強め、結局、年後半で前半戦の上昇分を帳消しにしてしまいました。典型例は、前工程製造装置主力の東京エレクトロン(8035)です。4月4日に株価は最高値40860円をつけたものの、7月中旬から大きく値崩れし、12月27日現在で24380円まで下落しています。米・エヌビディアAI半導体の快進撃が続くなか、日本の半導体産業は勢いに乗り切れていません。後工程のディスコの健闘が目立つくらいです。

2024年の株式市場は、半導体産業に翻弄された1年になりました。4年越しでようやく上場に漕ぎ着けたキオクシア(285A•旧東芝メモリ)の公開価格は、仮条件の上限で決まりませんでした。機関投資家の潜在需要が思わしくなかった証です。そんな市場の弱腰を織り込むように、株価は公募価格1445円を若干下回る1440円で寄り付きました。ところが、初日は1601円で引けて、ここ数日、力強く上昇し始めています。ファンドの出口案件と揶揄されながらも、NAND型フラッシュメモリー世界3位のキオクシアに底力ありと見た機関投資家が見直し買いを入れているのでしょうか。不安と期待の入り混じった投資家心理が透けて見えるようです。


2023年世界半導体企業売上ランキング(赤囲みの日本勢は上位25社中3社のみランクイン)

一方、次世代半導体国産化を目指すラピダスに対して、政府は5兆円規模の巨額資金を投入する予定だそうです。これほど前のめりに資金援助する覚悟があるのなら、なぜ政府・経産省は80年代から90年代初頭まで50%強の世界シェアを誇っていた半導体産業を必死で守り抜かなかったのでしょうか。2012年2月、日本唯一の専業DRAMメーカー・エルピーダメモリNEC日立メモリが2000年9月社名変更)が会社更生法適用を申請して、経営破綻しています。当時のメインバンクは日本政策投資銀行でした。負債総額は4480億です。東京に向かう東海道新幹線車内のテロップで経営破綻を知ったときは、目が点になりました。同社の転換社債が相当売り込まれていたので、額面300万円相当に投資していたからです。エルピーダメモリは翌年米マイクロン・テクノロジー傘下に入り、昨年、日本政府の支援を受けて主力・広島工場に5000億円を投じると発表しています。今年4月には、岸田前首相が半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)熊本第1・2工場に対し、最大1兆2080億円を補助するとぶち上げました。

テクノロジーの進化に疎い文系学部出身の官僚や銀行員にデジタル社会の到来を察知する能力などありません。大型コンピュータからPC へ、PCからスマホへと目まぐるしく変化する潮流に目を光らせ、せめて有能な技術者を擁する半導体メーカーを長い目で支援する方向へと舵取りしてくれていたら、日本の半導体ビジネスが韓国や台湾に劣後することはなかったでしょう。日米半導体協定による貿易規制や円高進行で半導体業界が苦境に陥っていくなか、対照的に、韓国・台湾・中国は政府主導で大規模な補助金を投じ、設備投資や人材育成に取り組んでいたのです。

今年2月、エルピーダメモリの元社長・坂本幸雄さんが亡くなりました(享年76)。かつて「日の丸半導体」復活の舵取りを任された坂本さんは、天国から、遅きに失した政府の大盤振る舞いをどんな思いで見つめているのでしょうか。