趣向に富んだパリオリンピック2024開会式の革新性~世界最強観光都市パリの魅力を満喫~

コロナ禍のさなか強行された東京五輪の開会式は、開催自体に反対だったので、ライブ放映はスルーしました。その後、報道番組でダイジェストされた開・閉会式典のシーンを見ましたが、後に史上最悪と評されるとおり、まったく感興をそそられませんでした。

今回、パリオリンピックの開会式のライブ中継を見ながら、東京五輪2020直後に大前研一氏が「日本には大規模な演出を構想できる人材が決定的に不足している」と評したことを思い出しました。アニメやゲームの世界において、日本は世界有数の発信力を有しながら、確かにオリンピックのような国際的なイベントにおける日本の演出構想力は見劣りします。


出典:ルモンド紙・五輪水上パレードのコース

メインスタジアムで行われるものという通念から解放されたパリオリンピック2024の開会式は、革新的かつ斬新でした。6800人のアスリートを乗せた85隻のボートがセーヌ川を進む水上パレードは、宛ら、世界最強の観光都市であり芸術の都でもあるパリを巡る小旅行です。乗船しているアスリートや現地の観客はもとより、テレビに映る中継映像を楽しみにしていた世界各国の観客を意識したのでしょう。趣向に富んだ演出が冴えました。フランス国旗「トリコロール」に託された「自由・平等・博愛」の理念が開会式全体を貫き、個々のパフォーマンスや演出に連帯、寛容、多様性といった様々なメッセージが込められています。

ゆっくりと進む船から間近に見えるルーブル美術館オルセー美術館、補修工事中のノートルダム大聖堂エッフェル塔の遠景が、臨場感を高揚させてくれます。川面にはルーブル美術館所蔵の肖像画に描かれた女性の顔が浮かび、川岸の特設ステージに視線を移せば、レディ・ガガが仏発祥のキャバレーのパフォーマンスを披露。さらに船が進むと老舗キャバレー「ムーランルージュ」のダンサーが登場しフレンチカンカンが披露されます。ストリートで繰り広げられる大勢のダンサーによるパフォーマンスに画面が時々切り替わり、パリの活力の源泉がダンスにあることを知らしめます。


エッフェル塔のステージで「愛の讃歌」を歌うセリーヌ・ディオンさん/Handout/Screengrab by IOC/Getty Images

芸術の都パリと言えば、音楽も忘れるわけにはいきません。ジョルジュ・ビゼーの「カルメン」からハバネラやエリック・サティの「ジムノペディ」が流れます。1900年のパリ万国博覧会に建てられたグランパレの屋上からオペラ歌手が届けるフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」は、朗々たる歌唱で見事でした。開会式の締めくくりはシャンソンでした。長らくステージから遠ざかり闘病中と囁かれていたセリーヌ・ディオンさんがサプライズで登場し、エディット・ピアフの名曲「愛の讃歌」を熱唱します。写真(上)のように、雨が降り頻るなかでしたが、歌姫による圧巻のパフォーマンスに酔い痴れました。


オステルリッツ高架橋

次々と繰り広げられるパフォーマンスだけでなく、パリで最も美しい橋と称される「アレクサンドル3世橋」をはじめ、選手を乗せた船が潜るセーヌ川に架かる橋に注目しました。セーヌ川沿いには歴史的建造物が立ち並び、河岸をつなぐ橋は37を数えます。日没が近づくと、エッフェル塔と共に、美しいパリの景観を象徴する橋がライトアップされます。橋とセーヌ川が織りなす妖艶な美しさに暫し時が経つのを忘れてしまいました。