朝日新聞論壇時評(「コロナ禍と五輪」)を読んで

今日の朝日新聞朝刊が東京オリンピック開催の是非をめぐる論壇の空気を伝えています。「コロナ禍と五輪」と題する論壇時評の評者は東大院情報学環の林香里教授。前任津田大介を引き継いだ、朝日新聞論壇時評欄初の女性評者だそうです。冒頭、女史は大多数の国民の声を代弁するかのようにこう述べています。

「いったい、東京五輪パラリンピックはこのまま開催するのか、中止するのか、延期するのか。新型コロナワクチンの普及も見通せない。霧のかかったような見通しの悪さに、イラーっと来ているのは私だけではあるまい」

東京オリンピック2020の日程は2021/7/23~8/8(33競技339種目)、続くパラリンピックの日程は8/24~9/5(22競技539種目)となっています。オリンピック開会式まで2ヵ月を切った今なお、いざ開催という機運が一向に盛り上がらないのは、コロナ禍収束の見通しが立たないからに他なりません。国民生活に大きな足枷となっている緊急事態宣言は解除されるどころか、九分九厘、6月20日まで延長されそうです。開催国日本は、視界不良どころか、視界ゼロに近い惨憺たる状況に置かれているのです。

折しも梅雨どき、イラーっというより、ヒトの脳は宙ぶらりんな状態がもたらす不快感を断固として拒絶します。正常な思考回路が受けつけようとしない違和感と不快感が、開催国日本の偽らざる市民感情ではないでしょうか。IOCのバッハ会長やコーツ調整委員長が五輪開催を声高に叫べば叫ぶほど、五輪は国民から分断され遠ざかっていく気がしてなりません。オリンピックと危機緊急事態宣言はどう転んでも両立しないのです。新型コロナ禍の世界的蔓延は今世紀最大の危機的状況であり、対極にある祝祭オリンピックと交わることはないのです。

本間龍氏は辛辣にこう批判します。「世界的に見て、東京五輪は税金を湯水のように使って民間企業を肥やす「祝賀資本主義」のもっともグロテスクな完成型で、歴史に記録されるだろう」。祝祭の中心にいるのはメディアを支配する広告代理店電通と大手新聞社、五輪開催の是非をめぐるメディアの論調がどうにも生ぬるいのはむべなる哉です。その姿は軍部の暴走にNOと言えなかった太平洋戦争当時のメディアとぴったり重なります。NHKさえ拡声器の役割を果たし、メディアは例外なく「五輪翼賛プロパガンダ」を展開しているわけです。泥沼の日中戦争から太平洋戦争へと戦線を拡大し自滅した大日本帝国の蔭に官製国民統合団体、大政翼賛会がありました。開催都市東京都、政府、大会組織委員会、メディアの4者はさながら令和版五輪翼賛会なのです。いつの時代も愚者は歴史に学ぼうとはしないようです。

かくいう朝日新聞社は五輪のオフィシャルスポンサーという立場にありながら、5月26日の社説で菅政権に五輪中止を求める勧告を行っています。八代英輝弁護士は二枚舌だと揶揄しています。自縄自縛とはこのことです。

歴史探偵を自認されておられた故半藤一利さんは、草葉の陰で嘆いておられるに違いありません。