2024年大河ドラマ「光る君へ」と『源氏物語』

番組タイトルは光源氏、今年の大河ドラマはてっきり『源氏物語』の話だと思っていました。番組が始まるまで、番宣含め一切の雑音に耳を貸さなかったからです。第1回を視聴して『源氏物語』の作者・紫式部が主人公だと初めて知りました。紫式部を演じるのは「花子とアン」(2014)で主人公・村岡花子を好演した吉高由里子さん。演技力のある女優さんだけに、今後の展開が楽しみでなりません。回を重ね3ヶ月が過ぎましたが、so far so brilliant!

世界最古の長編恋愛小説を残した才女でありながら、紫式部の生没年すら分かっていません。『枕草子』の清少納言然りです。第13回(「進むべき道」)まひろは数年ぶりに嫡妻の家で道長とばったり再会します。道長配下の者は道長に対し、まひろを藤原為時の女(むすめ)と紹介します。平安時代中期に書かれた『更級日記』の作者も菅原孝標女です。男性中心社会でかつ一夫多妻制の御代にあっては、才長けた女官でさえ恰も男性の従属物のように扱われていたことがよく分かります。


(写真:NHK

道長柄本佑)の妻倫子(黒木華)から請われて出向いたまひろ(吉高由里子)が見せられたのは、道長が隠し持っていたという文。あろうことか、まひろが道長に送った帰去来の辞を認めた文でした。道長から文を貰ったことのない倫子は、そうとは知らず、女文字で書かれた文を一体誰が認めたのかと訝しがります。まひろが道長の元カノだとは知らない倫子。まひろは、早々に話を切り上げ辞した矢先に道長と再会します。不倫、略奪愛に始まり、ありとあらゆる恋愛を描いた『源氏物語』を地でいくスリリングな展開なのです。

「光る君へ」を英国貴族たちの生活を描いた「ダウントン・アビー」の平安版に喩えたのは三谷幸喜です。長く読み継がれてきた『源氏物語』は、谷崎源氏、円地源氏、瀬戸内源氏等、近・現代の小説家がこぞって現代語訳に挑み、コミック化(『あさきゆめみし』)もされています。古今東西、下々が窺い知ることの出来ない上流貴族の生活を覗き見るような感覚が読者を誘惑してやまないのでしょう。

生没年不詳の主人公・紫式部の生涯は謎めいています。史実では、まひろは父為時(岸谷五朗)の良き相談相手でもある藤原宣孝佐々木蔵之介)と結婚し一子を授かります。「虎に翼」の主人公なら「はて」を連呼する急展開です。ミッシングピースだらけの紫式部の生涯は、ベテラン脚本家・大石静さんの手にかかればきっと生き生きと甦るに違いありません。虚実内混ぜのドラマティックな展開を想像しながら、今からワクワクしています。