ゲームドライブで出会う野生動物たちが旅の主役だとすれば、その命を育む大平原は、さながら空気のように主役を引き立てる名バイプレイヤーです。
ゲームドライブの締めくくりに、どうしてもカメラに収めておきたかったショットがありました。それは、「アンブレラツリー」と呼ばれるアカシアの木の向こうへと沈む夕陽です。この圧倒的な光景を目にしたいがために、遥々セレンゲティ国立公園にまで足を運んだと言っても過言ではありません。もうひとつ印象的な景色がゲームドライブ中にしばしば見られる「コピエ」と呼ばれる花崗岩の岩山です。ライオンなどの肉食動物は獲物を探すために、この岩山の頂きに登って下界を睥睨します。さながら『ライオンキング』に登場する岩山、「シンバコピエ」です。
旅行中、一番耳にしたスワヒリ語は "Jambo"(ジャンボ=こんにちは)でした。ただ、これは専ら観光客向けの挨拶のようで、現地の人々の間では "Mambo"(マンボ=やあ)、"Poa"(ポア=元気だよ)といったカジュアルなやり取りが交わされていました。外国語の生きたニュアンスを会得するのは、本当に難しいものです。
それでも、どこの国を訪れるにせよ、真っ先に習得すべきは「ありがとう」の言葉でしょう。現地では "Asante sana"(アサンテ サーナ=どうもありがとう)だけは、努めて口にするよう心掛けました。
最終日、お土産店で何を買おうか迷っていると、店員から "Pole pole" と声を掛けられました。〈ポレポレ=ゆっくり、ぼちぼち行こう〉という、実に味わい深い言葉です。時間に追われながら都会で暮らしていると、立ち止まって考えるちょっとしたゆとりさえ見失いがちになります。筑紫哲也さんが著書『スローライフ-緩急自在のすすめ』(岩波新書)の中で、〈急ぐことで失うもの〉に言及されていますが、まさにそれを実感する旅となりました。デジタル社会から少し距離を置いたことで、はっきりと見えてきたのは、時間に束縛されない心のゆとりであり、大局的な思考や物事の全体像を多角的に捉える視座の類いだったのです。
セレンゲティ国立公園は、四国が丸ごと収まるほど広大なサバンナです。四国程度ならそれほど広くないと感じる向きもあるかもしれませんが、視界に建造物が一切入らない状況下において、そのスケール感は段違いでした。そこは文字通り、地平線の彼方まで続く「果てしない平原」だったのです。
日本のゴールデンウィーク(GW)は、東アフリカのタンザニアやケニアでは大雨季の終盤に当たります。と言っても、連日大雨が降り続けるわけではありません。滞在中、午後に一度だけ猛烈なスコールに見舞われましたが、それも30分と経たずに収まりました。
草木が新芽を吹き、緑が目に鮮やかなこの時期は、野生動物にとって新しい命が育まれる恵みのときでもあります。望遠レンズ越しに捉えたクロサイは親子連れ。コピエの上で悠然と横たわるメスライオンの傍らでは、3頭の赤ちゃんライオンが戯れていました。アフリカゾウの群れは、仔ゾウを護るように集団の内側へと誘い込みます。さらに今回、ンゴロンゴロ・クレーターを後にして外輪山を下る道中、最も遭遇しにくいとされるヒョウとも出会うことができ、念願の「ビッグ5」をすべて制覇することができました。
夏場のピーク時に比べて観光客が少なく、大自然を独り占めできるGWのタンザニア。それは思いがけなく、心身ともに費用対効果抜群の、極上の旅となったのです。








