浅草の甘味処・梅むらの「豆かん」

傑作コミック『孤独のグルメ』でその名を知って以来、長年訪れたいと思っていた浅草の甘味処「梅むら」の暖簾を、漸くくぐることができました。4年ぶりに「平成中村座」が浅草に戻ってきたので、お芝居の前に足を伸ばすことにしたのです。

開店時刻の12時半にすんなりと入店できました。行列覚悟だっただけに一番乗りとは拍子抜けしてしまいました。カウンター数席と小上がりにテーブルが2つ。想像していた以上にこじんまりとした店内には、コロナ禍の名残りなのかビニルシートが垂れ下がっており、洒落っ気など微塵もありません。

注文したのはもちろん名物の「豆かん」。カウンター席は少し落ち着かない感じだったので、小上がりで待つことにしました。5分足らずで、恋焦がれていた「豆かん」と対面。飾り気のない陶器のボウルに入った塩気のある赤えんどう豆とツルンとした寒天に、黒蜜をまぶしながら頂きます。お豆と寒天というシンプルな素材が生み出す、素朴で優しい甘さを存分に味わうことができました。

待っている間にも、次々とお客さんがやって来ます。皆さん、手土産や自家用に「豆かん」をいくつも買い求めていきます。どうやら店内で食べるのは少数派のようです。


(引用元:漫画『孤独のグルメ』)

2番目に威勢よく入店してきたのは中年男性。顔なじみなのか、店主に向かって「糖尿病に悪いんだけどな」と苦笑いを浮かべながら、テイクアウトの「あんみつ」と「豆かん」を注文します。『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎とは対照的に、男性ひとりで甘味処にやって来る気恥ずかしさなどこれっぽっちも見せません。日頃の血糖値コントロールに苦戦する我が身に重ね合わせ、「自分も似たようなものです」とひと声をかけると、見知らぬふたりの間に一瞬、名状し難い連帯感のようなものが生まれた気がしました。「豆かん」を食べている自分に向かって、彼は「あんみつの方が美味いんだよ」と言い残して、店を去っていきました。