刑務所暮らしのことを「臭い飯を食う」と言います。といってもそれは、水洗トイレが普及する以前の戦前の話です。大小の汚物を溜める木樽が部屋に設置されていたために、刑務所の食事が「臭い飯」と形容されたのです。現在は、管理栄養士の指導の下、栄養バランスに優れた食事が提供されています。
けれども、シャバ(娑婆)の暮らしとの際立った違いがいくつもあることを、現在放送中のNHK土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』を視聴して知りました。
作中では、料理酒はおろか、みりんや皮付きのバナナさえも使用禁止です。お酒やタバコなどの嗜好品に転用される恐れがあるからだそうです。刑務所ならではのこうしたルールが現場では徹底されているのです。ドラマでは、イタリアの星付きレストランで活躍した女性管理栄養士が、刑務所独特の厳しいルール下で、安くて美味しい料理を提供しようと悪戦苦闘します。
なかでも面白いと思ったのは、食事の「平等性の確保」が何より重視される点です。
自業自得とはいえ、行動の自由を奪われて窮屈な刑務所に閉じ込められた受刑者にとって、最大の楽しみは三度の食事です。したがって、提供される食べ物はどんな食材であれ、均しく分け与えられなければなりません。例えば、もし唐揚げの大きさが違ったりしたら、騒動、いや暴動の火種にさえなりかねないというのです。
このドラマを観て思い出したのは、ともに実刑判決を受けたホリエモン(堀江貴文)と、元大王製紙会長の井川意高氏の対談集『東大から刑務所へ』(幻冬舎新書)の一節です。1年9ヶ月の刑期を終えたホリエモンは、刑務所の食事をこう振り返っています。
「刑務所内で味が濃い食べ物って、甘いものしかないんですよね。塩分濃度が厳密に管理されているから、塩味がきいた食べ物なんて、たまに出てくるレトルト食品とか、サバの味噌煮くらいしかない。カレーですら薄味のスープだから、ふざけんじゃねぇと思ってた。」
もし冤罪で刑務所に放り込まれたとしたら、とても耐えられそうにありません。「ムショラン」で大人気食べ物は「どんぶりぜんざい」だそうです。こわもての受刑者がスイーツ男子に変貌するとは、笑えます。平等性の確保の観点だけでいえば、スープなら、確かに全員へ均等に配分しやすそうです。けれども、味の方はホリエモンが嘆くとおりのようです。投獄された二人が、出所後に「最初に食べた食事」の話題で盛り上がるのも当然だと言えるでしょう。「食べ物の恨みは恐ろしい」と言いますが、シャバでもムショでも、人間の考えることに大差はないようです。

