「ナッジ効果」あれこれ

道の駅「尾瀬かたしな」のトイレの壁に「盗まれるほど人気!?」と記したポスターを貼ったところ、トイレットペーパーの盗難が激減したという新聞記事を読んで、行動経済学の「ナッジ(nudge)効果」の一例だと思いました。行動経済学は、従来の経済学とは異なり、人が必ずしも合理的な判断をするとは限らないという前提に立っています。

「ナッジ効果」の"nudge"には「肘でそっと突く」という意味があります。人が意思決定する際の環境をお膳立てすることで自発的行動変容を促すことを指すとされます。「トイレットペーパーの無断持ち出しは犯罪です」と記載したポスターに比べると違いは歴然です。トイレットペーパーが有料だということをさりげなく知らしめるだけでなく、店頭販売までアピールしています。実際に購入する人がいるそうなので、「ナッジ効果」てきめんです。

トイレといえば、男性小便器の前に「一歩前へ」と記したステッカーをよく見かけます。これに対して、高速道路のSA/PAでは上記のようなステッカーも見かけます。どちらが効果的なのでしょうか。行動経済学の「ナッジ効果」に従えば、警告や命令口調のステッカーより後者の方が利用者の自発的な協力を得やすいように思えます。これには前例があります。1999年にアムステルダム・スキポール国際空港の小便器の底にハエの絵を貼りつけたところ、飛沫が80%減ってトイレの美化に繋がったのだそうです。

コロナ禍でソーシャル・ディスタンスを確保するために、人の足型の代わりにペンギンのイラストをペイントし、ストレスを感じさせないように行動変容を促すのも「ナッジ効果」の一例です。

ほかにも、行動経済学の研究成果には注目すべきものがいくつかあります。有名なのは「プロスペクト理論」です。amazonプライムデーのような「期間限定セール」や「閉店間際の半額セール」などは、人の損失回避の習性につけ込み「何も買わないのは損」だと思わせる巧みな販売戦略なのです。株式投資損切りが遅れがちなのは「サンクコスト効果」のせいです。新刊書の帯に「芥川賞受賞作家絶賛」と書かれていれば「ハロー効果」を狙ったものです。「ナッジ効果」はともかく、天邪鬼としてはこうした効果を狙った計算づくの販売戦略に反旗を翻したいところですが、大抵、知らず知らずのうちにどっぷりと術中に嵌っているのです。