谷口ジローX夢枕獏|実写を超えた仏アニメ映画『神々の山嶺』の圧倒的スケール

漫画家・谷口ジローを知ったのは『孤独のグルメ』がきっかけでした。原作(久住昌之)もさることながら、この作品をブレイクさせた最大の功労者はとことんディテールにこだわった谷口ジローであり、その作画こそコアコンテンツなのです。

夢枕獏の山岳冒険小説『神々の山嶺』も谷口ジローの手でコミック化されています。『孤独のグルメ』同様、『神々の山嶺』を世界的ベストセラーに押し上げたのは原作ではなくコミックの方だったのです。フランスでコミック版が大ヒットし、欧州各地で翻訳され、やがて英語版も出版されたのだそうです。ブログ・タイトルは谷口ジローに敬意を表して、谷口ジローX夢枕獏としました。ルーブルBDプロジェクトに招聘されたくらいですから、谷口ジローに対する評価はワールドクラス。ルーブル美術館を舞台に書き下ろされた谷口ジローの『千年の翼、百年の夢』(小学館・2015年)は、美術ファン垂涎の傑作です。

神々の山嶺』の舞台はエベレスト登山の起点カトマンズ。雑誌記者の深町は長い間消息不明だった孤高のアルピニスト・羽生を現地で目撃し、前人未到のエベレスト南西壁・冬季無酸素単独登頂に挑む羽生にカメラマンとして同行したいと申し出ます。羽生は頑なにその申し出を拒否しますが、次第にふたりの距離は狭まっていきます。

昨年8月、日本公開されたアニメ映画『神々の山嶺』はフランスで制作されたものです。劇場公開を見逃したので、つい最近、amazon prime videoで視聴したところです。岡田准一(深町)や阿部寛(羽生)が出演した2016年の実写版より遥かに完成度が高いと感じました。垂直に切り立った雪壁を登攀するシーンをはじめカメラアイでは再現不能なシーンが続出し、臨場感を際立たせます。アルパインスタイルで黙々と頂上をめざす羽生には、谷口ジローの緻密な作画が究極のマリアージュです。

視聴後、「一度、山を覚えたら取り憑かれる」という羽生のセリフを反芻しながら深い余韻に浸っています。