青森県の日本百名山2座に登る|岩木山篇

10月中旬、急遽、2泊3日の慌ただしい行程で青森県日本百名山2座に登ることになりました。期間限定で発売された<鉄道開業150年記念JR東日本パス>を利用すると35%近くも運賃を節約できることが分かったからです。一般論としては、現地・登山口までの移動を考えるとマイカー利用が好ましい選択なのですが、遠隔地となるとそうも言っていられません。北海道や九州の山々をめざすなら飛行機+レンタカー、仙台以北となると新幹線やローカル線にレンタカーや路線バスを組み合わせてアプローチすることになります。当然、セルフドライブに伴うリスクや疲労からは解放されますが、装備すべてを持ち歩くことになるので存外煩わしかったりするものです。

初日、新青森駅でレンタカーを借りて、太宰治の生誕地・五所川原市金木町を訪れ、周辺観光した後に弘前市街へと移動しました。金木町まで行く道すがら、ニホンザルの群れに出くわし驚きました(確か下北半島ニホンザルの北限だったはず)。芦野公園で折り返して、国道339号弘前市街に向かう途中、りんご品種「ふじ」の発祥の地・藤崎町を通り過ぎます。国道の両脇は見渡す限りのりんご畑でした。あと半月もすれば「ふじ」の収穫が始まります。進行方向右手には翌日登る岩木山が聳えています。宿泊先のホテルに近い弘前市立郷土文学館を訪れて、郷土作家・葛西善蔵今官一岩木山評を読んでテンションを高めました。この日は素泊まりだったので、日没後にホテルを出て周辺を歩いてみたものの、飲食店の灯りは疎らで寂れた印象を受けました。結局、夕食は立食い天婦羅蕎麦で済ませました。

翌朝6時少し前に登山口のある津軽一之宮・岩木山神社に到着、百沢コースで山頂をめざしました。首都圏からアプローチし易い日本百名山なら、週末は言うまでもなく平日でさえ登山口の駐車場はそこそこ賑わっているものです。ところが、早朝とはいえ、岩木山神社の広い駐車場にクルマはわずか2台。岩木山神社を通り過ぎた先にある津軽岩木山スカイライン(有料)を利用すれば、8合目駐車場まで自家用車やシャトルバスでアプローチが可能です。わざわざコースタイム・4時間20分を要する百沢コースを登る人はかなりの少数派なのでしょう。上りは山頂直下の鳳鳴ヒュッテ(避難小屋)に至るまで背後に一切人気を感じませんでした・・・時短優先のご時世とはいえ、ピークハントだけで事足れりとするのはあまりに味気なさすぎます。

この日は、天気予報が外れて登山口から直径20㍍ほどの小池のある種蒔苗代まで晴れ間も見えて、まずまずの登山日和でした。8合目からの登山道と合流する地点には、赤い屋根が目印の鳳鳴ヒュッテがあります。そこから30分あまり岩場の急登を遣り過ごすと山頂でした。急登からガスが立ち込め始め気温は急降下、360度の山頂展望は残念ながらお預けでした。津軽海峡や翌日登頂予定の八甲田山も見えるはずでしたが、ガスの切れ間から避難小屋越しに見えたのはかろうじて白神山地だけでした。ココアで身体を温め、奥宮で手を合わせてから下山を開始しました。

太宰治は代表作のひとつ『津軽』のなかで、津軽富士こと岩木山を「決して高い山ではないが、けれども、なかなか、透き通るくらゐに嬋娟(せんけん)たる美女ではある。」と描写しています。太宰は、西海岸から見た山容はまるで駄目でもはや美女の面影はないと付け加えています。富士山をはじめ独立峰は遠くから眺めて愛でるものとはいえ、見る角度によってずいぶんと優劣が生じるのはまさに太宰が指摘した通りです。

翌日の八甲田山登山を控え、下山後は弘前市内から酸ヶ湯温泉への移動が待っています。下りはリフトを使って8合目へ向かい、シャトルバスと路線バス(嶽温泉~岩木山神社前)を乗り継いで、岩木山神社駐車場に戻りました。