2023年度末の閉館が惜しまれる棟方志功記念館

2泊3日の慌ただしい青森の旅・最終日にどうしても訪れておきたかったのが棟方志功記念館です。というのは、同館が来年度末(2024年3月31日)をもって閉館することになったからです。今年7月のリリースには、新型コロナウイルス感染症の影響で長期にわたり来館者数が落ち込み財源確保が難しくなったとあります。よほど寂れているのかと思いきや、平日にもかかわらず、受付横のビデオブースはほぼ満席。こじんまりとした館内に30名弱の来館者がいたように思います。

建物は、校倉造り風の設えで池泉回遊式庭園と枯山水庭園を備えています。門柱から建物の全容が見えないところが粋なところです。桂離宮のようにわざと建物入口を隠しているように思えます。建物に入ると右手の階段を上って受付へと導かれます。昭和50(1975)年の開館ですから築47年の建物になりますが、少しも古びた印象を与えません。先のリリースは老朽化やバリアフリー対応の遅れを閉館の理由に挙げていますが、とってつけたような理由づけに思えます。端的に言えば、行政は財源不足を理由にこともあろうに棟方志功を切り捨てようとしているわけです。もしゴッホ美術館(アムステルダム)を閉館してアムステルダム国立美術館に移管するとしたら、オランダ人だって黙っていないはずです。

郷土青森が生んだ世界に誇る天才板画家・棟方志功の画業を末永く讃えるために開設された施設なのに、青森県立美術館に移管し専用展示室を設けるから事足れりとするのはあまりに乱暴です。「世界のムナカタ」なればこそ名を冠した専門博物館があって然るべきです。

(展示室は)「多くの作品を並べるよりも30作品程度の作品をじっくり鑑賞できるような広さがよい」という棟方の強い希望に基づいてつくられたそうです。棟方志功記念館を訪れて心地よく作品鑑賞できた最大の理由は其処にあります。夥しい数の展示資料を並べた展覧会にうんざりしているだけに、年4回の展示替えでじっくり作品を見てもらいたいという展示ポリシーには深く共鳴します。

棟方志功がとても大切にしていたスタインウェイ&サンズ社製のグランドピアノを前景に代表作のひとつ《二菩薩釈迦十大弟子》を撮影しました。大作を鑑賞する上でいかに距離感(ディスタンス)が大切かがよく分かると思います。天井高やゆとりある動線に加え、作品間の適度な余白もしっかりと計算されています。棟方作品を鑑賞する上で最高の環境が調えられていると感じました。

閉館までまだ1年有余あるので、記念館を再訪する機会を窺うつもりです。