穂村弘の言葉季評より~「ちょっと」「苦手」「かも」~

10月6日付け朝日新聞朝刊オピニオン欄に掲載された歌人穂村弘さんのディスクールに思わず膝を打ってしまいました。近頃は、SNSの普及のせいでしょうか? 少しでも過激な発言をしようものなら世間から袋叩きに遭うリスクが大いに高まっています。実際に不用意な発言をしたタレントや有名人のSNSはかなりの確率で炎上しています。飲食店を例に、昭和の時代なら「美味しくない」「不味い」と平気で言っていたのに、最近は「ちょっと苦手かも」と必ず逃げ道を用意した言葉遣いが定着してきているのだと筆者は言います。

テレビCMの片隅に現れる「個人の感想です」という不思議なメッセージには、逆に、「自分は好きだけど、人それぞれだから、気に入らない人もいるでしょうね」と気に入らない人への配慮が滲んでいるのだと、筆者は付け加えます。

筆者自身が、無意識のうちに「苦手」表現を学習していたのだと言います。逃げ道づくりが社会全体の空気感とは言い得て妙です。かく言う自分も、過去1ヵ月のLINEやメールを調べてみると、確かに一定の文脈のなかで「苦手」を使っています。副詞の「ちょっと」や終助詞「かも」で更なる婉曲表現を狙うまでには至っていませんが、歯切れの悪さは否めません。

「ちょっと苦手かも」はノーリスクでダメ出ししたいときに使う新兵器といったところでしょうか。ならば、いっそのこと、大阪弁の「知らんけど」をマスターした方が手っ取り早い気がします。関西人ではないのでニュアンスを上手く伝えられませんが、wikiによれば<特に大阪弁において自分の主張などを話した後、結びの言葉として「自分の見解に責任は持てない」旨を言い添える>ことのようです。東京の住民には些か抵抗のある大阪弁ではありますが、「ちょっと不安かも」より、よっぽど場が和むように思うのです。現にZ世代はネットスラングとして「知らんけど」を使いこなしているそうです。