高層マンション暮しは幸せなのか?~「区分所有権」は「所有権」に非ず~

マンション住まいでもないのに、ときどき、マンション暮しについて考えることがあります。家内が大のンション嫌いなので、この先、マンションに移り住むことはなさそうです。が、銀座あたりにささやかなセカンドハウスがあったら便利だろうなと思うときが屡々あります。コンサートや観劇のあと、郊外の住まいに戻るのを億劫に感じるときが端的な場面でしょうか。と言っても、地価が高い都心では選択肢はマンションに限られます。

最近読んだ『生きのびるマンション<ふたつの老い>をこえて』(山岡淳一郎著・岩波新書)は、住民の高齢化と建物の老朽化という<ふたつの老い>に焦点を当てて、豊富な取材例をもとに、マンションの近未来予想図を提示しています。マンション(鉄筋コンクリート造り)の法定耐用年数は47年と定められています。あくまで税法上の耐用年数に過ぎません。マンションの平均寿命は68年、物理的にメンテナンスさえ行き届いていれば100年前後住み続けられる可能性だってあります。一方、給排水管の寿命は、素材にも依りますが、平均30年と言われます。低層のマンションならいざ知らず、タワマンに代表される高層マンションの場合、長期修繕計画履行の有無が資産価値を左右することがよく分かります。マンションの近未来予想図がバラ色でないことは確かです。

これまで、高いところで暮らした経験がないわけではありません。90年代前半、NYに駐在していたとき、ミッドタウンの新築高級マンションの18F角部屋が住処でした。職場へは徒歩10分前後。西日が少し気になりましたが、ハドソン川を望む眺望は申し分なく快適なマンション住まいでした。賃貸で気楽な分だけ、必要以上に美化しているのかも知れません。

高層マンションに永住ということになれば、検討課題は山積みだったことでしょう。一番気になるのは、大きな窓がもたらす眺望の良さと引き換えに引き受けざるを得ない不都合な真実(デメリット)です。東や南向きの部屋は「室内が真夏の日なたに駐車した車のなかのような状態になる」とよく言われます。東南角地の敷地が一番高いとされますが、実際に住むとなると、日当たりが良すぎるのも考えものです。タワマンの場合、部屋の面する方角次第では、日常生活は灼熱地獄と隣り合わせなのではないでしょうか。

敷延の我が家の北隣は南向き。お隣さんになってこの方、1階リビングのシェードカーテンが開いているのを見たことがありません。湿度の高い日本では従来南向きが良いとされてきましたが、空調システムが進化した今、必ずしも南向きにこだわる理由はないと思っています。タワマンでは「北向き愛」なる言葉も生まれています。

その昔、新婚の部下が世田谷で新築マンションを購入するとき、「低層がいい」と言うので「貞操観念」は大事だよねとダジャレで返した記憶があります。イギリスでは育児世帯の4階以上の入居は禁止されていると聞いたことがあります。高層階での暮らしに健康上の懸念はないのでしょうか。地に足のついていないマンション暮らしにはどうにもなじめそうにありません。最大の問題点は、建物が経年劣化したとき、区分所有者および議決権の4/5以上の多数で決議しないかぎり建て替えがままならないことです。一方、建て替えに反対する少数派だった場合、「売り渡し請求」をかけられ、強制的に追い出されてしまいます。

禅問答のようですが、「区分所有権」はまことの「所有権」に非ずというのが持論です。