ホスピタリティが半端ない<南アルプス林道バス>の運転手さん~往路は左側に乗車しよう~

8月初旬、不覚にもオミクロン株に感染して10日間の自宅療養を余儀なくされ、計画していた八ヶ岳縦走を断念。その後も天気は一向にぱっとせず、下旬に予定していた南アルプス山行に暗雲が漂い始めました。夏休み最後となる週末の渋滞を回避するために平日2日をオフにして、8月25日(木)に早朝起床して、中央自動車道経由で蓼科山をめざしました。出発時の東京は曇天、八ヶ岳周辺は厚い雲に隠れて視界不良。クルマで移動中は横殴りの雨や濃霧に見舞われ散々の出足でした。ウォーミングアップのつもりで登った「諏訪富士」こと蓼科山の頂きは濃いガスに包まれ、360度展望は無念のお預けとなりました。下山途中、蓼科山荘前で待機している大勢の中学生と引率の先生方と遭遇しました。こんな日の体験学習はお気の毒と言うしかありません。長野県の中・高生は学校行事で登山する機会が多いそうですが、悪天登山が災いして生徒を山嫌いにさせてしまうこともあるようです。

蓼科山を早々に引き揚げ、北沢峠へ繋がる長野県側の路線バス発着拠点・戸台(仙流荘)へ移動しました。上高地同様、マイカー規制が敷かれていますので北沢峠まで<南アルプス林道バス>に乗車することになります。仙流荘で1泊し翌朝、写真のような建物の券売機で往復チケット(2740円)を購入し、<南アルプス林道バス>の始発(平日は6:05発)に乗り込みました。東の方角には不気味な雲が漂っています。

始発は3台仕立てで乗車したのは2号車です。ソロだったので2号車最前列の補助席に滑り込めました。戸台~北沢峠まで運行時間は小1時間。「戸台大橋」のゲートが上がると、いよいよ「南アルプス林道」です。マイクを握りしめた運転手さんが道々、バスガイドさん宛らの車内アナウンスをして下さいます。完成まで13年を要したという「南アルプス林道」建設の経緯(1979年全線開通)や、急峻な地形をゆく山岳道路から見える壮大な景色をたっぷりと解説してくれました。車窓からの眺めを楽しみたいのなら、往路は左側に乗車しましょう。途中、運転手さんがバスをわざわざ停車させて鋸岳の「鹿窓」を車窓から凝視させてくれるのですが、視力の劣る自分には端から無理な課題でした。この視力検査に合格できるような方が羨ましい。

赤い橋梁「戸台大橋」は帰り道に撮影したものです。帰路の運転手さんは、沿道を飛び交う渡り蝶で有名なアサギマダラやこれから黄葉するカツラに纏わるエピソードを披露してくれました。東京から路線バスを乗り継ぎ、登山口のある北沢峠まで凡そ4時間かかります。山懐が奥深い南アルプスはアプローチが不便で容易に人を寄せつけません。翌日、登る仙丈ケ岳から聖岳まで約30kmに3000m峰9座が連なっています。北アルプスの場合、約8kmの槍・穂高連峰に3000m峰が集中しているのに対して、一座一座が孤高を保ちながら屹立しています。「南アルプス林道」は彼方に聳える南アルプスの玄関口に過ぎません。登山口からそれぞれの山頂まで長く険しい道程を行くからこそ、南アルプスの山々に登頂したときの感動はひとしおなのです。