コロナ下の海外渡航は時期尚早

8月2日付け朝日新聞夕刊トップの見出しは<海外でコロナ陽性 帰れなくて>でした。いざ自分が罹患してみると、受診まで相応の時間とコストがかかることに気づかされました。懇意のかかりつけ医に電話予約をした上でクリニックを訪れたのですが、それでも受診から精算が済むまで小一時間かかりました。発熱外来がパンク状態の最中、不満は一切なくむしろ僥倖の部類だと思います。唯、これが海外だったらと想像するだけでゾッとします。

新聞記事はこう伝えています。この春、芥川賞作家の川上未映子さんがブッカー賞授賞式などに参加するため渡航した際、同行した女性が帰国直前にコロナ陽性と判断され足止めを喰らったというのです。現時点で日本に入国するすべての人が現地出国前72時間以内に新型コロナの検査を受けて厚労省が定める陰性証明書を取得することになっています。ところが、この女性は軽症で症状がなくなったにもかかわらず陽性が続いたため(注)、帰国の途に就くことができなかったのです。ひと足先に帰国した川上さんが在外公館による邦人帰国支援策(コロナからの回復を証明する「領事レター」の発行)を知って女性にアドバイスしたところ、陽性判明から2週間で帰国実現というのが記事の顛末です。

川上さんの奔走のお蔭でこの女性は救われたかに見えますが、幾つか問題点があります。恐らく渡航先が英国など先進国中心(英語圏)だったので比較的短期間に現地で受診が叶い「領事レター」取得に漕ぎつけられたのでしょう。皆保険制度が定着している日本と違い、海外の医療費はとてつもなく高いことで知られています。高額医療費の負担はどうされたのでしょうか。クレジットカードのメジャー特典のひとつ、「海外旅行傷害保険」は通常募集型企画旅行代金をクレジットカードで支払ったときのみ付帯されます。旅行代理店を使ったとしても、募集型でなければ全額自己負担になってしまいます。さらに、滞在期間が延びたことで航空便のキャンセル、再手配、滞在費用の負担と次々と厄介事が降ってきます。

それ以前に、見知らぬ海外でコロナ診療に長けたクリニックを探し当てて受診に漕ぎつけるまでがひと苦労です。あらかじめ在外公館の連絡先を控えておいたとしても、タイムリーに的確なアドバイスが得られるものでしょうか。

最近、ハワイでバケーションを楽しむ芸能人の姿が報じられるようになりました。コロナ禍への警戒が緩んできた証と好意的に受け止めたいところですが、海外での感染リスクを総合的に考えた場合、海外渡航は時期尚早だと思えてなりません。

(注)検査キットは微弱なウイルスも検出するので実際治ってから1ヵ月近く陽性を示すことがあるようです。