身近な小鳥・シジュウカラが操る言葉~小鳥博士こと鈴木俊貴さんの研究テーマ~

東京都の公立小中学校では明日から夏休みが始まります。小学生にとって夏休みは丸々自由な時間というわけではありませんが、社会人になれば1ヵ月どころか2週間の連続休暇だって夢のまた夢です。フランスのサラリーマンやOLなら年間5週間の有給休暇=バカンスが与えられます。フランス人はバカンスのために働いているといって過言ではありません(仏系投資銀行に勤務しているとき思い知らされました)。「働き方改革」を狼煙だけに終わらせず、日本社会も待ったなしで働き方を抜本的に見直すべきではないでしょうか。

そんな貴重な夏休みを小学生が塾通いで終わらせてしまうのはあまりに勿体ないと思うのです。我が家の息子ふたりはボーイスカウトでしたから、夏休みは大抵野山へキャンプに出掛けて自然と親しんでいました。夏休みの自由研究のテーマなら自然観察に勝るものはないと思っています。謎だらけの自然界は好奇心に満ちた子どもたちにとって格好の観察対象だからです。

市街地でもよく見かけるシジュウカラが言葉を操ることを世界で初めて証明した小鳥博士こと鈴木俊貴さん(1983年生・京都大学白眉センター所属)は、少年時代、自宅で昆虫や魚などを20種類以上も飼っていたそうです。ヤドカリ、カエル、カマキリ、クワガタ、ヘビ・・・「子どもには自然のなかで育って欲しい」と願ったお父さんの発案で、鈴木家がわざわざ都内から茨城に引っ越した結果、やがて新分野「動物言語学」を志すことになる俊貴さんにとって、またとない自然環境が整えられました。自宅の庭には野鳥の水場があり、隣は林だったそうです。偏差値一辺倒の価値観からは創造的知性は育まれません。鈴木さんが長男が通った自由な校風で知られる私立桐朋高校の少し上の先輩だと知ってちょっぴり嬉しく感じています。

大学2年のとき、森で色々な声で鳴くシジュウカラと出会い関心が芽生えたのだそうです。1年のうち半年以上、森で観察・実験を続けた結果、天敵(捕食者)が近づいてきたとき、対象によって鳴き分けていることが分かったのです。危険を察知したとき、単に恐怖を表現するのではなく、天敵を明確に区別したりふたつの鳴き声を組み合わせて<文章>として仲間にメッセージを伝達していることも明らかになってきました。分かっただけでもそのパターンは200種類以上もあり「文法」さえ存在するそうです。

タカ⇒「ヒーヒーヒー」
ヘビ⇒「ジャージャー」
カラス⇒「ピーッピ」
警戒しろ・集まれ⇒「ピーツピ・ヂヂヂヂ」(モズが現れるとシジュウカラは集団で威嚇するそうです)

これまでの研究成果だけからでも、「シジュウカラ語」と呼ぶにふさわしい複雑な言葉の遣り取りが成立していることが分かります。これまでの鳥の鳴き声に対する理解を根底から覆す画期的な発見です。こんなワクワクするような研究テーマを見つけられたのは、幼少期に自然と隣り合わせの暮しがあったからでしょう。豊かな知的好奇心とはこうして育まれるものなのです。