村治佳織ギター・リサイタル2021@サントリーホール

正統派クラシックギタリストでありながら、スクリーンミュージックをはじめエリック・クラプトンビートルズのナンバーも情感豊かにカバーしてみせる村治佳織さんのCDを普段から愛聴しています。なかでも一番の推奨盤は『ポートレイツ』。休日の朝にこのアルバムを聴くと心も身体もリラックスできるからです。

2018年にデビュー25周年を迎えた村治さんのライブに一度足を運びたいと思っていました。2年ぶりにサントリーホールでリサイタルが開催されることを知り、チケットを手配しこの日を心待ちしていたのです。

リサイタルのタイトルは“青いユニコーンの寓話”。伴奏者抜きの正真正銘のソロでサントリー大ホールを満席にできるギタリストは彼女を措いて他にはいないでしょう。円熟の境地に達した村治さんの1曲目は『愛はきらめきの中に』でした。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』の挿入歌で、12月1日に発売されたばかりのベストアルバム『ミュージック・ギフト・トゥ』の冒頭曲でもあります。リサイタルの主眼は、村治さんが敬愛するキューバのギタリスト、L・ブローウェルの委嘱作品のお披露目でしたが、全篇難解でもどかしい思いが先立ちました。むしろ、『ポートレイツ』にも所収されている第1部の終曲『タンゴ・アン・スカイ』(ローラン・ディアンス作曲)が耳に馴染んでいるので愉しめました。

第2部、コバルトブルーのドレスに身を包んで登場した村治さんを仄かなブルーライトが照らし出します。演奏は言うまでもありませんが、演奏の合間に軽妙な語り口で作品解説を挟むプログラム進行がリサイタルのもうひとつの魅力です。すっかり、本職のアナウンサー顔負けの淀みない彼女のトークの虜になってしまいました。師匠である父・昇さんからギターの英才教育を受けた佳織さんですが、意外や意外、「ギターの原点は(美しい音色より)カッコいい」だったそうです。「箸休めに」と演目にない『禁じられた遊び』のおまけもサービスしてくれました。最終曲の演奏が済むと、「視力が1.2もあるので観客の皆さんの顔がよく見えます」と笑いを誘いながら、四方の客席に手を振る仕草の可愛いこと。

アンコールは『カヴァティーナ』と『メモリー』の2曲、映画『ディア・ハンター』のテーマ曲とミュージカル『キャッツ』を代表するナンバーです。心に染み入るようなエンディングでした。7年ぶりのベストアルバムのライナーノーツにはこうあります。

<Look, a new day has begun. 「メモリー」の歌詞はこう締めくくられます。a new dayは命ある限り誰のもとにも毎日やってきます。自分自身の日常、世界の日常、どちらも一変することもあり得るのがこの世界だと学びました。>

アルバムタイトルの如、ミューズ・村治佳織さんからの素敵な贈り物(ギフト)に心を揺さぶられた夕べでした。