並河靖之七宝記念館を訪ねて

本年12月13日から2023年春まで保存修復事業のため長期休館になると知って、京都市東山区三条通にある並河靖之七宝記念館を訪れました。秋季特別展<並河七宝を語りつぐ>の会期終了間際でした。この記念館は1896(明治29)年に竣工した七宝作家並河靖之(1845-1927)の旧居宅兼仕事場で、庭園(京都市指定名勝)は植治こと七代目小川治兵衛が手掛けたことで知られています。

2017年に東京都庭園美術館で開催された初の大規模回顧展(「並河靖之七宝展」)を見て以来、並河靖之が生涯をかけて極めた有線七宝の超絶技巧にすっかり魅せられ、並河靖之七宝記念館を訪れる機会を窺っていました。受付を抜けるとすぐに代表作《藤草花文花瓶》と4年ぶりの再会を果たせました。流麗な花瓶のフォルムに沿うように二色の藤の花があしらわれています。計算し尽くされた均斉美と光沢に改めて目を奪われました。作品の9割以上が海外に輸出されたためか、展示品はさほど多くありません。ひとわたり展示品や邸内を鑑賞したあとは、母屋の縁側に腰掛けて庭の景色を楽しみながら往時を偲ぶことに。軒下まで迫る池のお蔭で水面に浮遊しているような感覚を味わえます。

帰りしな、たまたま西隣のお宅の表札に目が留まって吃驚、<小川治兵衛>とあります。お隣同士だったからこそ、こじんまりとしたお庭でありながら、稀代の作庭家の粋が詰まった池泉回遊式庭園に仕上がったのでしょう。のちに「水の魔術師」と呼ばれることになる植治が琵琶湖疎水を民家に引き入れたのは、並河邸が初めてだったそうです。