「監視資本主義」社会の立役者デジタルプラットフォーマーの絶大なる影響力

2021年8月27日付け日経朝刊の<GAFA日本株超え」>という見出しは衝撃的でした。2020年5月9日、同紙はGAFA時価総額東証一部(2170社)超えを報じてから、わずか1年あまりで日本株全体の時価総額を凌駕してしまったのです。足元、GAFA時価総額は日本円で770兆円、たった4社で日本の名目GDP(538兆円)さえ上回っていることになります。1年間で560兆円の時価総額が770兆円ですから、年率37.5%増えた計算です。その凄みはROEを見るとより顕著で、TOPIX平均6%に対してアップルは74%、アマゾン27%、フェイスブック25%、アルファベット19%と夢のような資本効率を叩き出しています。高い成長力、堅固な財務基盤、高い株主総還元性向、どれをとっても日本を代表する優良企業でさえその足元にも及びません。高収益の源泉は個人情報という「21世紀の石油」採掘に成功したからに他なりません。

4社の本拠地米国では、GAFAよりも"Big Tech"とか”Tech Giants”と呼ばれているようです。イニシャルを羅列するよりは<デジタルプラットフォーマー>に呼称した方がその本質を的確に表現できるのかも知れません。

その<デジタルプラットフォーマー>=”Tech Giants”は、今や、国家を超越した存在なのです。コロナ禍においても各社の業績は絶好調で、社会インフラと化したG彼らの圧倒的な存在感は、一方で、深刻な負の影響をもたらしています。PCや携帯端末を操るネットユーザーの行動は、常時<監視>され、ネットで購入する品物や閲覧サイトは<デジタルプラットフォーマー>に筒抜けになっています。ポータルサイトに表示されるネット広告は、ユーザーの選好や嗜好を巧みに捉え、商機に結びつけています。検索サイト出現以前は、実際に店舗に足を運んだり。本で調べないと分からなかった情報が、今では瞬時でしかも無料で入手できます。しかし、その代償として、個人のプライバシーに関わる厖大な情報を無防備に巨大IT企業に提供しているのです。購買行動、趣味嗜好、位置情報、交際関係等々、提供された情報が悪用される危険性を察知しているネットユーザーは、残念ながら、日本では少数派ではないでしょうか。

9/1付け朝日新聞朝刊<耕論>で前公取委員長・杉本和行氏は、反競争的行為に対して巨額の制裁金を課す欧州・米国に対して、日本は「和を以て貴し」とする文化があり、欧米並みの課徴金制度を設けなかったことに寛容な態度を示し、国家とGAFAは対立する概念ではないと述べています。急速な社会構造の変化に対応できないおめでたい元財務官僚です。9月1日の今日、600人体制でデジタル庁が発足しましたが、デジタル監は72歳のおばあちゃん、石倉洋子一橋大学名誉教授。200人の民間出身者を抱えているそうですが、初代長官平井卓也も63歳の高齢者、しかも石倉デジタル監同様、上智大学国語学部出身。こんな人材配置をしておいてデジタル庁とは傍ら痛い。

「監視資本主義」という造語を流布させたショシャナ・ズボフ氏は、バルキーな著書『監視資本主義(The Age of Surveillance Capitalism)』のなかで、無防備に日常を晒す人々は収奪の対象(「予測工場で原材料を抽出・没収される物にすぎない」)に他ならないと強い調子で警鐘を鳴らし、自己決定権を取り戻す戦いへの参加を呼びかけています。「私たちがグーグルを検索していると思っていたら、実はグーグルの方が私たちを検索していたのです」とズボフ教授は鋭く言い放ちます。軌を一にして、FTC・米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission) 委員長にこの6月に就任したばかりのリナ・カーン氏(32歳)は、”Tech Giants”への規制強化に乗り出す姿勢を鮮明にしています。課税強化を含めた規制も大切ですが、なにより、自己決定権を脅かす個人のプライバシーに関わる情報収集すべてについて、特定個人と紐づけしないような仕組みを早急に講じることが急務です。