戦争のリマインダー(2)~映画『ミッドウェイ』再び~

昨年9月に映画館に足を運んで以来、小一年、ご無沙汰です。未だにワクチン接種が済んでいないので、引き続き外出自粛モードで臨んでいるからです。その間、amazon prime videoやwowowオンデマンドの視聴機会が増えたので、不満が昂じているわけではありません。ただ、シアターならではの巨大スクリーンに圧倒的な音響、この2つの効用だけは残念ながら自宅では得られません。前回鑑賞したのは、当時の新作『パヴァロッティ 太陽のテノール』に『ミッドウェイ』、我ながらシアターで見るべき映画をよく心得ています(笑)。

以前、ブログで『パヴァロッティ』には言及したので、今回はwowowオンデマンドで再視聴した『ミッドウェイ』(2019年制作)に触れたいと思います。監督は「インデペンデンス・デイ」などで知られる巨匠ローランド・エメリッヒ監督。もう一度じっくり見たいと思っていた映画だけに、いいタイミングでwowowが配信してくれました。ミッドウェイ海戦(1942年6月5日~7日)は、真珠湾攻撃以来快進撃を続けてきた海軍が虎の子の空母4隻をすべて失い、太平洋戦争の主導権を米国に奪われた歴史的戦いです。日本人にしてみれば、開戦からわずか半年での大敗北。しかも、真珠湾で討ち漏らした敵機動部隊の息の根を止めるはずが、逆に息の根を止められ、これを境に海軍は太平洋地域の制海権と制空権を米国に明け渡していくことになります。日本が失った飛行機は320機、戦死者は3057人と被った損害は米軍の戦死者362人に比べ途轍もなく大きなものでした。

米国(一部中国など)で制作された映画『ミッドウェイ』の見どころは、真珠湾攻撃で出鼻をくじかれ戦意を沮喪しかけていた米・太平洋艦隊が如何に陣営を立て直し、戦力面で圧倒的優位な立場にあった日本軍にどう挑んだのか、そのプロセスにあります。名著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(1984年・ダイアモンド社)(中公文庫所収)がミッドウェー作戦の敗因を多岐にわたって分析していますが、この映画を見ると指揮官の度量が命運を分けたのだと思えてなりません。

更迭された合衆国艦隊兼太平洋艦隊司令長官キンメル大将の後任はキング大将。彼は「世界で最も難しい仕事だな」と呟いて、当時56歳のチェスター・W・ニミッツ中将(ウディ・ハレルソン)を太平洋艦隊司令長官に抜擢します。日本海軍の軍令承行令にあてはめれば上から26番目の提督ですから、日本なら司令長官の芽はありません。しかも太平洋艦隊の主力艦の大半を失った逆境からのスタート。こんな重責を引き受けたニミッツの素晴らしいところは、キンメルに真珠湾攻撃を警告していたレイトン情報主任参謀(パトリック・ウイルソン)をはじめ、キンメル時代の幕僚を解任せず、温存したところです。気骨のある闘将である上に部下の信頼を勝ち得ることに優れたニミッツ少将の抜擢が、ミッドウェイ海戦の勝利を手繰り寄せたのです。注目すべきは、決め手となった暗号解読の現場を司令官自ら視察し、解読精度を確認した上で、得られた情報に全幅の信頼を置いたことです。米軍エースパイロット、デイック・ベスト(エド・スクレイン)が操る爆撃機ドーントレスが急降下爆撃するシーンをはじめ圧巻の戦闘シーンもさることながら、こうした部下への信頼が丁寧に描かれています。

一方、日本側は山本五十六連合艦隊司令長官豊川悦司が、ミッドウェイ海戦で対照的な指揮を執ることになった南雲忠一中将と麾下第二航空戦隊司令官山口多聞少将を、それぞれ國村隼浅野忠信が好演します。ミッドウェイで戦死した山口少将が山本五十六長官に対して、ことある度に南雲中将の司令官としての適性に疑義を呈していたところが印象的でした。属人的な人事に囚われ有能な将校を司令官に据えられなかった日本軍は、戦局に応じて適材適所の人事を断行する米軍の人事システムに完敗したと断言して間違いなさそうです。

エンドロール直前に次のような献辞が捧げられます。海に散った将兵への最大級の弔いの言葉ではないでしょうか。

This film is dedicated to the American and Japanese soldiers who fought at Midway.(ミッドウェイで戦った日米の将兵に捧げる)

The sea remembers its own.(海は全てを覚えている)

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日米両軍の死闘を中立的な視点で描いた『ミッドウェイ』は、後世に残すべき戦争映画の金字塔のひとつだと思いました。