超低金利時代に蔓延する金融ドラッグ汚染

最近、日経朝刊に<超低金利が招く老後危機>と題する記事が掲載されました。大規模な金融緩和のしわ寄せから、運用難に喘ぐ米国公的年金が運用成績を押し上げやすいレバレッジ運用(「梃子の原理」に倣い投資資金を借入金で膨らませること)に活路を見出しているという内容でした。米生命保険会社のレバレッジは過去最高水準(生保自己資本の11倍)にあり、米公的年金の代表格カルパースも内部で慎重論が囁かれるなかレバレッジ運用に手をだしているのだそうです(純資産総額比7%台)。慢性的な積み立て不足を解消するにはハイリスクの取引は避けて通れないということなのでしょう。

記事も指摘するとおり、レバレッジ運用には常習性(習慣性)があり、一度手を染めると麻薬のように手放せなくなります。膨張した運用資金は、レバレッジ運用のほかに、ローン担保証券(CLO)にも向かっているそうです。リーマンショックの引き金になったサブプライムローン証券化され売り捌かれるようになったために信用審査が疎かになった背景があります。21年度上期の米国におけるCLO組成額が過去最高とは驚きです。リーマンショックの教訓は完全に忘却の彼方のようです。

こうして、行き場のない運用資金は、安全資産である国債や高格付けの事業債からハイリスク商品へと傾斜を深めています。足元、米国債10年の利回りは1.18%、20年前は5%台でしたから債券運用は風前の灯です。日本国債10年物に至っては0.005%ですから、さらに悲惨な状況です(参考までに日米長期金利の10年チャートを添付しておきました↑)。結果、比較的安全で確実な利回りを享受できる債券運用の割合は、公的年金において、20%近い水準にまで低下しています。我が国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のHPに掲載されている海外年金ポートフォリオの比較表を見ると、カルパースの債券運用比率は28%、カナダの年金基金では18%まで低下しています。

翻ってマイポートフォリオを俯瞰してみると、公的年金と足並みを揃えるように、10年前なら50%以上あった現預金・債券比率は20%半ばまで低下してしまっています。利回り2%台の国債や事業債はここ数年で殆どが満期償還を迎え、代わりにハイリスク商品の典型クレジットリンク債の割合が急増しています。高利回りを謳うクレジットリンク債や証券化商品は、さながら<金融ドラッグ>、禁断の運用商品に他なりません。

異次元金融政策に転じた日米欧の中銀がそろそろ正常化に舵を切ってくれない限り、機関投資家も個人も感染力の強い<金融ドラッグ>から逃れることは難しそうです。