<東京オリンピック中止>を誰も言い出せない本当の理由とは何か?~不可抗力免責条項のない「開催都市契約」~

リモートワークが定着してきて、忙しいビジネスマンやOLも自宅でワイドショーを観る機会が増えたのではないでしょうか。主婦層をターゲットにしたワイドショーをコロナ以前に観たことのない方が寧ろ多いのではないかとさえ思っています。さまざまなジャンル(特に事件・芸能・スポーツ)の情報を提供するこのワイドショーなる番組に、かくいう自分もかなり汚染されつつあります。特に目障りなのがワイドショーに登場する自称感染症専門医。連日、ありきたりのコメントばかり聞かされるとさすがにウンザリです。目下、国民の最大関心事、<ワクチン接種に伴う副反応のリスクは高いのではないか><東京オリンピックは本当に開催されるのか>という2つの疑問にさえ真摯に向き合っているようには到底思えません。前者はメディカルサイエンス、後者は国際契約法に関わる問題です。

ワクチンについては以前触れたので、今回は国民の過半数がすでに開催を疑問視している<東京オリンピック>について考えてみたいと思います。昨日、毎日新聞東京オリンピックパラリンピック組織委員会武藤敏郎事務総長の弁をこう伝えています。

「五輪中止の違約金、考えたこともない・・・そもそも、そんなことを言い出す人がいるのかも含めて、私には予想がつきません」

開催まで2ヵ月と迫ったなか、初代財務省事務次官・日銀副総裁を歴任した俊秀の回答でしょうか。国民を愚弄するにもほどがあります。記者の突っ込みが足らないせいもあるのでしょうが、恍けるのもいい加減にしろと言いたくなります。IOCと東京都が締結した「開催都市契約」(以下:「当該契約」)に従うと説明した上で、損害賠償請求される可能性及び金額について言及すべきだったです。

当該契約第9条[IOCに対する請求の補償と権利放棄]には、いかなる事情に基づいて損害が発生したとしても、開催都市東京は無条件でIOCや受託者(スポンサー・サプライヤー・ライセンシー・放送機関等)に対しその損害や違約金を補償するとあります。補償者は、東京都、日本オリンピック委員会、並びに組織委員会ということになります。これは、さながら江戸幕府が米・蘭・露・英・仏と締結させられた安政五ヵ国条約並みの不平等契約なのです。従って、<東京オリンピック中止>の判断に関して、小池都知事犬猿の仲の菅総理が政府は無関係と主張するのは、ある意味、尤もなことなのです。

更に問題なのは当該契約第66条です。当該契約を解除し大会を中止できるのはIOCのみとされています。想定されている事由は、戦争や内乱などの危機的状況です。東京都が申し出たとしても、考慮されるだけで最終判断はIOCが行います。

最近、米ワシントン・ポスト紙がコラムのなかで、IOC会長のトーマス・バッハ氏を「ぼったくり男爵(Baron Von Ripper-off)」と呼び、「地方行脚で小麦を食べ尽くす王族のように開催国を食い物にする悪い癖がある」と批判しています。

東京都が開催国に決まったのは2013年9月のこと。開催国に名乗りをあげた時点で今般の世界的パンデミックの兆候さえありませんでした。仮にこのとき、国際的ビジネス契約に通常盛り込まれる不可抗力免責(Force Majeure)挿入を申し出ていれば、開催国の芽はなかったことでしょう。IOCが定める「開催都市契約」は欧州の貴族文化を踏襲する極めて一方的で理不尽な内容だと気づいたところで後の祭りなのです。

オリンピック延期に伴い大会経費は膨らむ一方です。国が負担することになったコロナ対策費は960億円!昨年12月に公表された大会経費総額(第五弾)は何と1兆6440億円。オリンピック史上、最も経費がかかる大会になる見込みです。内訳はこうなります。

(東京都)7170億円 (組織委員会)7060億円 (国)2210億円 合計1兆6440億円

さらに、すでに支出した費用、東京都7770億円、国1兆600億円を加算すれば、大会経費の総額は3兆円を優に超えているのです。<東京オリンピック中止>が現実的になってきた今、進むも地獄、退くもまた地獄というわけです。コロナ禍で五輪強行開催へと前のめりになって突き進む日本の姿は、太平洋戦争末期の大日本帝国とぴったり重なります。全国紙は広告主であり五輪スポンサー企業に忖度して、<東京オリンピック中止>を積極的に言いだしません。

五輪狂騒曲は果たして如何なる結末を迎えるのか?都民のひとりとして、貯金が底をついた都の財政をひたすら憂えるばかりです。