シネマレビュー: ロングランを続ける『天気の子』(新海誠監督)

7月19日の封切り直後に観た新海誠監督(1973年生まれ)の『天気の子』、客足は依然好調で、興行収入は130億円を突破したそうです。日本映画史上、興行収入が100億円を超えた作品はわずかに10作のみ。大ヒットした『君の名は。』から3年、異常気象という身近なテーマを題材にしながら、大方の期待を裏切らない作品に仕上げた新海監督の手腕はさすがだと思います。中央線沿線住民としては、最寄りの巨大ターミナル駅<新宿>周辺の景色がさりげなく切り取られしばしば登場するので、それだけで作品世界に親近感を抱いてしまいます。初夏の新宿御苑を舞台にした『言の葉の庭』は、とりわけ印象深い作品です。総じて新海作品を観たあとは、普段は気にも留めない都会の雑踏や通勤通学風景に、いとおしさや愛着が募ります。

11/10付け日経The STYLE Interviewのなかで「多様で寛容、新宿が好き」と語る新海監督の飾り気のない庶民感覚と研ぎ澄まされた観察眼が、美しい映像を生み出す源泉なのかも知れません。新作『天気の子』においても、太陽光線のリフレクションの息をのむ美しさに引き込まれました。『君の名は。』と『天気の子』に共通するテーマは、制御し難い自然天体現象。新海監督は「日本では四季の移ろいを情緒的で美しいものととらえ、僕自身もそれを映画で描いてきた。だが、猛暑、寒波、大雨など気候変動が起きて、天気が攻撃的になってきた感覚が僕自身のなかにはある。その感覚を映画の中に描きたいと思った」(日経夕刊2019/7/23)と語っています。容赦なく忍び寄る自然の脅威を前に、人は否応なく生き方の選択を迫られます。映画のクライマックスで、天空の世界から15歳の天気の巫女陽菜を助け出そうと、家出少年帆高はこう叫びます。

「天気なんて、狂ったままでいいんだ!」

運命を従容として受け容れ、陽菜を救出しようとする帆高の覚悟に、深刻な環境問題を抱えた21世紀という困難な時代を生きる私たちの姿が投影されているように感じます。陽菜の命と引き換えに、来る日も来る日も雨、そんな日々が再び支配するようになります。重く垂れこめた雨雲の先に拡がる未来をどう想像するか、映画を見終わった観客ひとりひとりに大きな課題が突きつけられた恰好です。

後日譚: 『天気の子』に登場する屋上に神社のある廃墟ビル「代々木会館」(1969年竣工)の写真を添えておきます。7月28日(土)の午後、清々しい青空とNTT代々木ビルを背景に仰ぎ見るような角度から撮影しました。なかなかの出来栄えだと自画自賛していたら。8/1から本格的な解体工事が始まり、今となっては貴重な一枚となりました。